プールにご用心 クリプトスポリジウム

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夏が来れば思い出すではありませんが、プールの話。「今年こそプール事故がなければいいなぁ」と思っても、飛び込みスタートによる頸椎損傷などの事故は未だ後を絶ちません。一方、プール排出口へ吸い込まれて死亡する事故は聞かなくなりました。でも気を緩めるとまた起こります。関係者は気を引き締めて夏を乗り切って下さい。今回は(排水口や飛び込みのどちらでもない)プールと病原性微生物の話。

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本サイトで「夏が来れば(くれば)」というセリフをチェックしてみると、意外にたった三回。毎年のようにプール事故のないことを願っていたつもりでしたが、ここ最近は夏の血糖値上昇の方が個人的関心だったようです。

夏がくれば… (2009/06/26)
またもやプール飛び込み事故 2014 (2014/07/05)
未だになくならないプール飛び込み事故 (2015/06/27)

さて、昨年来の新型コロナ禍で世界中が疲弊する中、ワクチン接種の拡大で先が見えてきたと判断したせいか欧米では観光産業が活発化してきました。その中でCDC(米国疾病管理予防センター)が出してきたのがクリプトスポリジウム(以下、クリプト)に関する注意です。そういえば先日藤田紘一郎さんを取り上げた時、このクリプトのことにも触れました

この数ミクロンの微生物(原虫)は飲み水などを経由して私たちの体内に入り、下痢などの症状を引き起こし、最悪死に至るケースがあることが報告されています(水系感染)。

大都市で起こった例ではミルウォーキー(米国 1993)やシドニー(オーストラリア 1998)があり、前者は40万人の市民が感染し、100数十名の死者が出たと報告されています。ちなみに日本でも越生町(1996)などで発生しましたが、幸い死者はいませんでした。

クリプトは感染経路は飲み水だけではありません。過去に指摘されてきたのはプール等の水利用の場所もその1つ。きちんと塩素消毒などで安全性が確保されているのではないかと思う人がいるかもしれませんが、クリプトには塩素耐性があって消毒が有効には働きません。そういう意味で、クリプトは水道関係者にとって最凶最悪の微生物。

今回7月にCDC(米国疾病管理予防センター)が注意を呼びかけているのは、飲み水の方ではなく遊泳プールでの利用方法。下痢気味のこどもは泳がせないで下さいというものです。クリプト感染の糞便がプール水に混じると消毒では対処できないので他の遊泳者に感染させてしまうのが理由です。

下痢症状だけでは必ずしもクリプト感染とはいえませんが、CDCが問題にしているのは、そういうこどもがクリプト感染をしているかもしれないという危険性を考慮しているのでしょう。私思うに、これはこどもだけの問題ではないはず。大人だって同じだし、脱糞しないまでも肛門辺りに残留物があれば汚染に繋がります。

その地域でクリプト感染が広がってきたらプールは閉鎖した方がいいと私は考えますが、混み合うプールでは消毒の有効性も怪しくなるので普段から注意した方がいいでしょう。健康増進を目的にするのはわかりますが、免疫状態の低い高齢者がプールを使うのは要注意です。
(CDCによる一般向けファクトシートはこちらで入手できます

もう1つ。クリプト被害が出てくると、「下痢になるだけ」だから騒ぐなという人がすぐに出てきます。健康な人にとってはたしかにその通りですが、免疫機能が低下した人には致命的なので「健康人以外は死んでもいい」と言っているのと同じ。ご用心下さい。(詳しくは「クリプトスポリジウム被害の考え方」をご参照下さい)。