クリプトスポリジウム被害の考え方

Water

 クリプトスポリジウム症を問題にする時、時々唖然としたり、びっくりするような意見に出会います。その真偽や妥当性について少し考えてみましょう。

Q:クリプトって罹っても下痢になるくらいでしょう?なぜ、そんなに騒ぐの?
A:「クリプトは下痢になるくらい」は、健康な人に関する話。免疫能が低下した人たちにとっては致命的にもなりかねないので、クリプトスポリジウムで騒ぐのは変という意見は、健康人以外は死んでもいいと言っているのと同じになります。
 逆に、この点をしっかり把握しておれば、(免疫能低下はCD4で評価できるので)問題にすべき集団はどういう人たちであるかが明確になり、対策もより合理的に準備できるはずです。しかしながら、厚生省の「クリプトスポリジウム対策指針」には、この辺の検討が全くありません。健康な人も危険な人も同一に取り扱うことで質問のような「騒ぎ」を作りだしてしまっているともいえます。騒ぎが問題だというのなら、その責任の多くは厚生省とその取り巻き連中かもしれません。

Q:クリプトスポリジウム対策は浄水場で可能だと水道当局は言っていますが、じゃ何が問題なんですか?
A:厚生省の「クリプトスポリジウム対策指針」がもたらした誤解のひとつに、浄水場ろ過池の出口の濁度を0.1度以下に維持すれば問題なしというのがあります。これには科学的根拠がありません。指針解説でミルウォーキー市の経験から云々というのがありますが、とんでもはっぷん。ミルウォーキー水道局長に厚生省指針のこの個所の話をしたら困り顔で、私と2人で困ったねぇと苦笑い。
 濁質が少ない時には不純物としてのクリプトスポリジウムも少ないだろうという期待はたしかにできます。しかし、これは必要条件以下でしかない。濁質とクリプトスポリジウムとの間に明確な関係はありませんから、ムシを測定しない限り存在の可否は判定できません。要するに、濁度指針は浄水場運転上の指針にしか過ぎないわけ。それがいつのまにか、安全保証になる論理飛躍に呆れてしまいます。
ちなみに、米国でもカナダでもオーストラリアでも、浄水場出口濁度0.1度以下だったら大丈夫等というトンチンカンな話をする人はいません。厚生省自身も指針では大丈夫だと言っているわけではありません。誤解を招くような書き方をしてしまったのは、水道事業体を安心させるためか、あるいは非常時の責任回避理由を作っておこうと考えたせいかもしれません。困ったことに、日本の衛生当局は自ら資料を集め勉強するということがないのか、厚生省のクリプトスポリジウム対策指針をそのまま丸写ししたような対策で茶を濁していますが、これでは本当に事件が発生したらヤバイですね。

Q:クリプトスポリジウムってAIDSの人だけが問題なんでしょ?
A:これは完全な認識不足。免疫能が低下した人が重篤な被害を受けますが、何もAIDS患者だけではなく、ガン治療を受けている人、臓器移植手術後の患者、新生児や妊婦のような人たちにも十分な注意を払う必要があります。実際、ミルウォーキー事件での最初の死亡者は肺ガン患者(69歳女性)でした。

Q:AIDSの人ってクリプトスポリジウムじゃなくても他の感染症で危なくなることがあるんじゃないでしょうか?
A:どうせヤバイのだから対策を採らなくてもいいという意味だったら、非人道的な差別発言ですね。治療薬の開発が進み、HIV/AIDSが不治の病であるという話が昔話になる時が来るはずです。AIDS云々ということではなく、きちんとした感染症対策として考えるべきところです。