Bösendorfer & Blüthner 

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今年のルツェルン音楽祭で是非聴きたかったソロ演奏は、アルゲリッチさんとシフさんのピアノ、そして前回触れたアンネ=ゾフィー・ムターさんのヴァイオリンでした。残念ながらアルゲリッチさんは体調不良でキャンセルになりましたが、昨年体調不良でキャンセルになったシフさんは今年は素晴らしい演奏となりました。

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アンドラーシュ・シフさんは現代トップクラスのピアニストの1人。日本公演も時々あるし、今年第36回高松宮殿下記念世界文化賞 音楽部門を受賞したので、名前をご存知の人もおられるでしょう。奥様は塩川悠子さん(ヴァイオリン)でお二人の共演アルバムを何枚も出していらっしゃいます。

そのシフさん、ルツェルン音楽祭では8月31日にリサイタルがありました。会場舞台にはピアノが2台。それもかなり年期の入っていそうな色艶のもの。よく見ると、1台はベーゼンドルファー、もう1台は全く知らない名前でした。

舞台には2台のピアノ、左はBösendorfer、右はBlüthner(1859).
写真はLuzern Music FestivalのInstagramから

辛うじて読めたのはライプツィヒというドイツの地名のみ。ライプツィヒといえば、バッハやシューマンが活躍した場所で、ゲーテも「小さなパリ」と小説の中で触れている音楽の都の1つ。調べてみると、もう1台のピアノを作ったのはBlüthner(ブリュットナー)というメーカーで、トーシロの私には初めての、でもピアノに造詣の深い人たちには著名なピアノでした。

主催事務局のInstagramによると、シフさんはご自身のピアノ2台、Bösendorfer と Blüthner(1859年製) を会場に持ち込んだとのこと。Blüthner というメーカーの創業は1853年なので、初期に生産された貴重なピアノのようです。

Blüthnerは高音部の弦の数が4本(1本は共鳴用)という特長があり、高音部の響きが違うんだそうな。2台のピアノの響きはどうも違う、もう1台の方(Blüthner)は Bösendorfer より少しかためかな?とも思いましたが、明確な違いはわかりませんでした(素人耳です、念のため)。

面白いことに、今回のシフさんの演目は全てファンタジーと名がつくものでした。つまり、各作曲家のファンタジー聞き比べといった様相です。まず、バッハのクロマチックファンタジーとフーガ(BWV 903)、次にモーツェルトのファンタジー(KV 475)、ハイドンのファンタジー(XVⅠⅠ:4)、ベートーヴェンのop.27 No.1 月光(Sonata quasi una Fantasia)、メンデルスゾーンのファンタジー op.28、そしてシューマンのファンタジー op.17。それぞれ雰囲気が違うのもファンタジー(幻想、空想、超自然、神話的?)に対する作曲家のイメージの違いでしょうか。

シフさんのピアノは実に柔らかく、そして透明な感じ。私の勝手な感想でいえば、熟成した美味しいワインを飲んでいる時に味わうような、この上なき幸福感を覚えました。

御本人も今回の演奏に満足感を得た様子で、拍手喝采のスタンディングオベーションに応え、アンコール曲は4つ。素晴らしいリサイタルでした。辻井伸行さんのピアノがもっと円熟していけば、こんな感じになるのかね〜と思った次第です。

(追記)ちょうで本稿をアップする直前にシフさんの記事が新聞に出ていました。曰く、「音楽とワインは似ているところがある」「どちらも熟成しなければならない」(産経新聞2025年11月1日)との話はまさしく同意するところです。