飼い喰い 三匹の豚とわたし

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飼い喰い――三匹の豚とわたし買い食いではありません。そのままの、飼って食べる。著者が三匹の子豚を小さい時から育て上げ、大きくなったら屠畜して食べた、という話です。

なぜそんなことを実行したのか、飼いブタを食べると、いったいどんな心理効果を生み出すのか、そもそも著者の狙いは何なのか、そんなことが気になって読みました。なかなか面白い。

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自らエネルギー源を創り出すことができない私たちは、米や麦などの穀物、魚や獣の肉、お野菜などを食べることで生きていくことができます。

たとえば、牛肉や豚肉あるいは鶏肉を食べるということは、牛豚鶏の命を奪うことでヒトの命が成り立っているわけ。こんな当たり前のことを日頃真剣に考える機会はきわめて少なく…、いや命のやり取りを真剣に考えずに済むように隠してしまうことで成り立っているのが現在の社会なのでしょう。

でも、無菌社会のような処で暮らしていると、私たちは獣の命を忘れがちになります。それ以前に、食の過程で裏方仕事を担っている人たちを忘れ、食べ物を大事にせず無駄にしがちになっていく…、するとゴミになる食べ物もどんどん増えてくる。そんな問題を放置したまま、食料の自給率なんて数字だけで議論していくと、食が食そのものの本質からどんどんはずれていくことでしょう。

著者は世界各地の屠畜の現場を取材する中で、「これらの肉がどのようにして生まれ、どんなところで育てられ、屠畜されるに至るのかに、興味を覚え」、実際に自ら子豚を育て、それを食べるということを実践しました。その記録が本の内容です。

本では養豚業の実態を紹介しながら、いろいろな問題や課題をも提示していきます。そして、最後に飼い豚を食べてしまうという著者の心のうちを披瀝。私が一番知りたかったのはその最後の処ですが、なかなか感慨深いものがありました。知りたい人は本を手にとってみて下さい。

3.11と東電原発事故を経て、私たちは核汚染物質入りのお肉に神経質になっています。それはそれで大変な問題なのですが、それ以前に畜産業そのものの現代的問題がどこかに消え去っていくことを著者は懸念しています。その通り! 私自身も先日牛肉の放射線量に関連して同様の懸念を提示しましたが、まだお読みでない方は是非ご覧下さい。

ところで、著者と食べられたブタの頭蓋骨が並んだ記念写真は逸品。端正な美人顔の著者と飼い豚の骨格がまるでそっくりに見えてきて、云い方は変ですが、まるで親子のようです。飼いブタは飼い主に似たのでしょうか。