食べ物を選ぶ 牛肉の場合

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食べものは商品じゃない―すこやかな命を未来へ原発事故による牛肉の汚染が話題になりますが、私自身はあまり気になりません。なぜかというと…。

牛肉を食べなければ生きていけないというわけではありません。汚染が気になるのであれば、食べるのをやめたらいい。安全かどうかわからない・食べていいのかどうか、そんなことをあれこれ悩むよりも、アヤシイものは避けるというほうがシンプルな対処ではないでしょうか。

牛肉について、私がヤバイと気づいたのは狂牛病の事件の時でした。知人の娘さんがクロイツフェルト・ヤコブ病で亡くなったこともあり、あれこれ調べてみると牛肉の安全性には狂牛病どころか実に危ういものがあることがわかりました。

まず、脊髄を割ったり内臓を破壊してしまうような荒っぽい解体をしてしまうと簡単に枝肉が汚染されてしまいます。輸入肉に内臓や脳などが混じっていたのを記憶している人も多いはず。いくら全頭検査をしたって部位別にチェックしない限り汚染は食い止められないでしょう。そんなことまで自分で判定することもできませんし、売り手や売り手擁護の行政の言い分なんかは信じられません(毎度のこと)。

加えて、米国産の牛というのは餌が怪しい。遺伝子組み換えのコーンだけでなく、ホルモン剤・抗菌剤なんでもあり。そんな育て方をした牛の肉を食べるなんて狂牛病以前にご免被りたい。某牛丼屋が米国産牛に拘っていましたが、あそこはお米も怪しいので私はパスしています。

じゃ、国産牛だったら問題ないのかというと、これも心許ない。国産牛もエサはほとんどが輸入品ですから、米国牛と同じ問題があります。霜降り肉なんてのは不健康な肉にしか私には見えません。注射器で脂を注入するサイコロステーキの例を引くまでもなく、エサに大量の油脂分を入れ込み、見かけ上脂ぎっている肉を作るようなものもあるので要注意。

また、牛は産地の付け替えが法的に認められています。つまり、生まれた場所から移動させても、3ヶ月たてば生育させた場所の産にできるのです。これを偽装というのは酷だと思いますが、宮崎で起きた口蹄疫事件の時、宮崎の仔牛が得られないと近江牛や松坂牛などのブランド牛が作れないという話にはちょっと驚きました。これだけならまだ可愛い話ですが、大手食品会社の手によって他国産の牛も国産牛に変身する話まであるのですから、いったい実態はどないなっとるの?と笑えません。

肉ではありませんが、インスタント食品や調味料などに入っている牛エキスってご存じでしょうか? 牛エキスは牛骨などの煮汁が原料とされています。でも、この「等」が問題で、骨や内臓はともかく、頭から尻尾まで肉以外の部分は何でもありで、カタチがわからないのを良いことに廃牛や病気牛まで使うのが実情らしい。そうやって作り出したものはエキスだけでなく、化粧品やコラーゲン関連の健康食品にまで入り込んでいます。

ゼラチンも同様です。事実なら狂牛病以前にこれも使えませんが、エキスもゼラチンもウラ社会と関係あるらしく内情ははっきりせず、個人には調べようもないと指摘する人もいます。幸い、海草から作るアガーがゼラチンの代用品になることに気づき、私は7、8年前から動物性のゼラチンとは縁切りできました。

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牛は知れば知るほど厄介な話が出てきますが、品質ではなくエネルギー的な観点でも興味深いことがあります。
竹内直一さんによると、畜産物1kgを生産するために必要な穀物は以下の通りで、牛肉は豚肉の3倍、鶏肉の4.5倍の穀物を消費し、飛び抜けて資源消費型であることがわかります。つまり、牛肉は世界的な資源・環境問題を考える上でも問題ありというわけです。

1kgの畜産物を作るには必要な穀物の量
牛 肉 20kg
豚 肉 6.5kg
鶏 肉 4.4kg
卵   2kg

(竹内直一「食べ物は商品じゃない」(七ツ森書館 2002年)より)

輸入穀物が餌である限り、昨今のように穀物相場が大きく上昇するとエサ代もうなぎ登り。資源的にみてもエネルギー的にみても、放牧ではない畜産業は国際的な資源バランスを著しく歪め、コストさえ世界経済の渦の中で翻弄されてしまいます。先に記した怪しい餌や信頼できない生産方法などなど、そこまでして(日本では主食でもない)牛肉を食べなければならないのでしょうか。

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じゃ私はどうしているかというと、牛肉を食べるのは年に数回あるかないか。買う場合でも生産元などの素性がわかるものを選んでいます。いただきものがあったり、外食時に出てくる場合もありますからさらに回数は増えますが、普通の家庭に比べれば牛肉を食べるのは極端に少ない方でしょう。理由は上に示した通りです。

たしかに、東電福一原発事故で放射性物質が大量に放出され、土壌を汚染し、農作物や畜産物・水産物への影響が広がっています。でも、それ以前に、牛肉に限らず食をめぐる状況はかなり危ういのがこの国の実情です。原発で汚染される以前にひどい状態・ヤバイ状況なのです。

だから、今回の原発事故を云々する以前の問題として、食べ物を選ぶ時にはまず、生産者や生産方法など素性のはっきりしたものを選ぶことが肝要です。国民全体のことはさておき、あなたやあなたの家族が生き残るために為すべきことは、食べ物に関する知識を手に入れ、まっとうな生産者を探し出し、できるだけ安全な食べ物を選ぶこと、これでしょう。

牛肉も同じ。放射性物質による汚染問題は、安全な食品を選ぶ際のチェック項目が1つ追加されてしまったということ。放射能フリーかどうかだけで牛肉を選ぼうとしても、安全な牛肉にはなかなか辿り着けないのではないでしょうか。