ヒバクを強制される側の視点(その4)

.opinion 3.11

話を低レベル放射線被曝に戻します。
改めて調べてみると、低レベル放射線被曝による影響を巡るせめぎ合いは未だ延々と続いています。日本などでは確率論的線引き以前の段階でまだ留まっていました。

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米国科学アカデミーがしきい値なしの直線モデル(LNT)を採用したのはつい最近の2005年ですが(BEIR-VII)、フランスや日本の放射線医学関係者は科学的には明らかではない等として、まだ認めていません。曰く、「100mSvより低い線量では、直線的にリスクが上昇するかどうかは明らかでない」とか、「LNTモデルを用いることの是非に議論がある」等として、最新のICRP2007勧告をフォローしていないのです。(日本原子力学会 「低レベル放射線の健康影響」 保険物理・環境部会 2009/06より)

なぜ低レベル放射能の人体影響を認めない・認めたくないのか? 科学的に明らかでないと云うのなら、「わからない」と素直に認めて研究課題にすればいい。なのに、それを否認するかのような意見を示し、メディアに出てきては「安全だ・問題なし」と嘯く。そっちの方がよほど非科学というものでしょう。

云うまでもなく、低レベル放射能の影響を認めてしまうときわめて困る業界があります。原子力発電や原子力関連施設のような事業を行っている業界です。システム上、放射能を環境中へ排出することを完全にゼロにすることはできない仕組みですし、関連作業にはどうしても被曝がつきまといます。どんなに小さくても放射線被曝には影響があると認めてしまうと、放射線防護に多大なコストがかかることになり、事業の遂行に差し障りが出てきます。

今回の原発事故でTVに出てくるほとんどの学者は、放射線被曝は急性障害のみで、被曝障害にはしきい値があるかのような解説をする者ばかり。そういう人たちは、最初に紹介した中川さん云うところの「科学的装いを凝らして作った社会的基準」を堅守し、それを権威つけて流布している人たちであり、明らかにヒバクを強制する側の代弁者。

日本の放射線医学研究者たちは皆そうなんでしょうか? まっとうな放射線医学の研究者がいてもTVには出してもらえないのでしょうか? 広島や長崎の低レベル放射線被曝は無視できるものなのでしょうか?とにもかくにも、TVや大新聞がここ最近やっていることは国民に対するダマシ・マヤカシです。彼らの視線はヒバク者にではなく、原子力産業の方に向いています。戦争中と全く同じで、非常時には権力の手先になり下がっているのです。

「デマに惑わされないように」とか「間違った情報に注意しよう」というのはこちらのセリフです。このまま黙っていたら、被曝影響の大きな地域の人たちは、今回の件で放射線医学関係者の後々の研究材料に「活用」されることはあっても、救われることはないかもしれません。

今すぐ私の話に納得できなくてもいいけど、1つだけチェックして欲しい。

TVや新聞で「基準値」を元にして「安全性」を唱える人たちは、ヒバクを強制する側なのか、それとも強制される側なのか、この点を考えてみていただきたい。前者なら、いくら権威があっても、もっともらしく聞こえても、そのまま鵜呑みにするのは危険です。それが非常時のメディア・リテラシー、そして生きるための庶民の知恵です。

(第一稿 2011/04/03)

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