ワクチン開発から抗体治療薬へ軸足変化か?

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新型コロナウイルスに対するワクチン開発に取り組んでいるのが世界で100社を超えるという話は既に記した通り。各国大手はアドバルーンを賑やかに打ち上げましたが実質的にはどうなのか。やるやる・始まる始まる詐欺にならないことを期待していますが、最近のニュースを見ていると状況はもう1つ芳しくありません。治験に要する患者の絶対数が減ってきただけでなく、お金の話が絡んでいるのではないでしょうか。ということで、引き続き抗体治療薬の話。

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5月5日に「冠を壊せ! 新型コロナウイルスを狙い撃ちする抗体を開発!」で、「オランダのユトレヒト大学の研究チームが、新型コロナウイルスを阻害・中和できるモノクローナル抗体を作ることに成功」したことを紹介しました。これが抗体治療薬の道筋を開くニュースでした。

それから1ヵ月もたたない6月1日に米国イーライリリー・アンド・カンパニーは、新型コロナウイルスに対する抗体治療薬について第Ⅰ相臨床試験を開始したことを自社のHPで発表したのは前回記した通り。LY-CoV555がその抗体治療薬。新型コロナウイルスのスパイク蛋白質に結合可能なモノクローナル抗体とのことです(注記1)。

さらに、同じ米国イーライリリー社は6月8日、第二の抗体治療薬の第Ⅰ相臨床試験を開始したことも発表。こちらはJS016というコード名のモノクローナル抗体です(注記2)。

ワクチンが先か、それとも特効薬が先か。議論はいろいろ分かれるところですが、製薬会社の立場に立てば景色は少し変わります。というのも、世界を救うためとか人道上の理由で安価に、あるいはタダ同然で薬やワクチンを提供する、というのは理想論だから。

ワクチン開発の先がわからない、儲けがどうも出そうにない、そういう検討の流れの中で登場してきたのが、上記のような抗体治療薬ではないでしょうか。

世界が欲するワクチンの値段を高く設定することは難しい。一方、特効薬は新型コロナウイルス感染症の流行が終焉したらその需要は消えてなくなります。でも、抗体治療薬の「高リスク者への予防的投与」が認可されたら、かなりの数の方に定期的な投与が行われることになり、大きな需要が長期間続くことになります。こちらの方が製薬会社にとっては(戦略的に)旨味が多いと考えても不思議ではありません。

米国イーライリリー社は「現在非臨床試験にて開発中のその他の抗体治療薬」もあることにも言及しています。おそらく、いくつもの抗体治療薬について同時進行的に開発を進め、いくつもの抗体治療薬を組み合わせて使う「カクテル療法」に効果があるという方向を目指しているのかもしれません(憶測です)。

こうなってくると、問題は抗体治療薬の値段設定がどうなるか。モノクローナル抗体系の薬はバカ高いのが実績ですから、新型コロナでもそれほど安くはならない(したくない)。でも、庶民サイドからすれば、貧富に関わらず世界中の人にとって安価に手に入るに越したことはありません。金持ちだけが助かるような値段設定にならないように細心の配慮をお願いしたいものです。

(注記1) LY-CoV555は、新型コロナウイルス感染症から回復した米国患者のうちの1人の血液検体から得た抗体から開発されたもので、新型コロナウイルスのスパイク蛋白質に結合可能なIgG1中和モノクローナル抗体とのこと。この抗体に関して米国イーライリリー社が組んでいる相手は、米国立アレルギー・感染症研究所とAbCellera社。

(注記2) JS016は新型コロナウイルスのスパイク蛋白質に結合可能な遺伝子組み換え完全ヒトモノクローナル中和抗体。こちらの抗体に関して米国イーライリリー社と共同開発しているのは、Junshi Biosciences社(本社:上海)。Junshi社が中華圏における開発を指揮し、米国イーライリリーが中華圏以外における開発を指揮しています。