太田喜義さん

.Books&DVD… .Lowcarboあるいは糖質制限

ある本で太田喜義さんのご逝去に関する話を発見。その本とは『バーンスタイン医師の糖尿病の解決』第四版の翻訳書。もともとこの翻訳本は太田喜義医師の手になるものでしたが、氏が亡くなったために新たに柴田寿彦さん(南医療生協名誉理事長)が受け継いだ恰好になっています。本はともかく、その後書きもなかなか興味深いものでした。

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バーンスタイン医師の糖尿病の解決  正常血糖値を得るための完全ガイド柴田さん曰く、南医療生協の理事長を退任した後、糖質制限の存在を知り、『バーンスタイン医師の糖尿病の解決』を読んだそうな。読むと、今まで自分が行ってきた糖尿病治療が厳しく批判されており、患者さんのためには勉強し直す必要性を痛感したとのこと。素直な人ですね。日本の糖尿病専門医が皆、柴田さんのような考えを持てば随分この国の事情も変わるはずですが、どうでしょうか。

その『バーンスタイン医師の糖尿病の解決』を訳していたのが太田喜義さん。太田喜義さんといえば、本サイトでも取り上げたことのある『ヒトはなぜ太るのか?』(メディカルトリビューン)等、肥満や糖質制限に関する著作で、米国での糖質制限例を日本に紹介した医師の1人です。

私がゲーリー・トーベスさんの『ヒトはなぜ太るのか?』を読んだのは2013年の4月。その数ヶ月前から低炭水化物食(糖質制限)を行っていたこともあり、このトーベス本は非常に有益でしたので本サイトでも数回に分け紹介した通りです。原著も読んでみたところ、翻訳が誠実で読み易く平易な日本語になっているのに改めて感銘しました。その訳者が太田さんだったのです。


太田さんは東大医学部出身。医局を経てNYのベス・イスラエル病院等で学ばれた心臓血管外科医です。専門論文は別として、一般向けに翻訳されたのは『ヒトはなぜ太るのか?』(2013)、グレッチェン・ベッカー『糖尿病予備群からの脱出』(2008)、『糖尿病・最初の1年』(2007)、R.K.バーンスタイン『バーンスタイン医師の糖尿病の解決』 (2005、2009、2016)で、すべて糖尿病絡み(注)。

実は私、『バーンスタイン医師の糖尿病の解決』(2011)は4年前に原著で読みました。というのも米国で第四版(2011)が出ているのに日本では第三版の翻訳のままだったから。それが昨年5月にやっと第四版翻訳が日本でも出版されました。英語で読んだからもういいやと思っていたところ、やはり英語と日本語では理解が違うかもしれないと心配になり(笑)、先週入手したところ翻訳者交替の経緯を知った次第です。

太田医師のご逝去は2012年8月で、バーンスタイン本第四版の翌年でした。生きていらっしゃったら第四版も太田さんが訳出されていたのかもしれません。この本を埋もれさせてはならぬと考えた柴田医師は太田さんの遺志を受け継いで昨年出版。第四版が大幅に遅れたのはそういう事情があったのでしょう。

米国で、いや世界において糖質制限の医学的効用を説いた二大巨頭といえば、アトキンスさんとバーンスタインさんのお二人です。そのバーンスタイン医師の著作をこの日本に紹介して下さったのが太田先生でした。最初の翻訳版は2005年、まだまだ糖質制限がゲテモノ・キワモノ扱いされていた頃ですから医学界からの非難や抵抗も随分あったことでしょう。でも、氏のおかげで私たち糖質制限実践者は米国での実情を知ることができ、随分助けられたのではないでしょうか。改めてここにご冥福をお祈りする次第です。

(注)グレッチェン・ベッカーさんの『糖尿病・最初の1年』では、1人1人病態が違うので単一のダイエット本の誇大宣伝を鵜呑みにせず、いろんな情報を集めて自分で一番良いものを選び取りなさいと説いています。必ずしも低炭水化物食(糖質制限)推奨ではありません(原著初版は2001)。一方で、同著者が2002年に出した『糖尿病予備群からの脱出』では、「低炭水化物ダイエットを考慮しなさい」とあります。彼女が問題視していたのは糖質量1日20gのアトキンスダイエットのことだったようです。グレッチェン・ベッカーさんの著作については機会があれば後日紹介しましょう。