桐山さんの死に思うこと

.Books&DVD… .Lowcarboあるいは糖質制限

糖質制限を広めた1人、作家の桐山秀樹さんが急性心筋梗塞で2月にお亡くなりになりました。守旧派・糖質制限反対派は、だから糖質制限は危険なんだというキャンペーンを展開しています。でも、奥様曰く彼は糖質制限を継続していたわけではなかった、とのことなので話自体が成立していません。

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「糖尿病治療」の深い闇桐山秀樹さんは糖質制限のエヴァンジェリスト(伝道者)の1人、著書の「おやじダイエット部の奇跡 「糖質制限」で平均22kg減を叩き出した中年男たちの物語」は本サイトでも既に取り上げました。

私が時々訪れる京都の焼肉レストラン「南山」は一部メニューに糖質制限を打ち出していますが、そのきっかけに桐山さんも一役買っており、入口付近には氏の本が置かれています。2月に行った時も席待ちのお客さんが手にとって読んでいるのを見かけたばかり。まさかその頃お亡くなりになっていたとは・・・。おくやみ申し上げます。

その桐山さん、2010年に57歳で糖尿病を宣告された時、ある編集者から江部康二医師の糖質制限本などを紹介され、食事内容を変えてみると劇的に症状が改善したとのこと。驚いた氏は日本の糖尿病治療のデタラメさや間違いに気づき、告発の書として『「糖尿病治療」の深い闇 』(東洋経済 2011年)を出しています。


おやじダイエット部の奇跡 「糖質制限」で平均22kg減を叩き出した中年男たちの物語彼の糖尿病診断時の身長は約168cm、体重は87kg、ウエストサイズは104cm。奥様で文芸評論家の吉村裕美さんが糖質制限メニューを毎日作って食生活の改善を図ったところ、体重は三週間で15kg減、血糖値は三ヶ月で正常値まで回復したそうな。10近かったHbA1cは6ヶ月で5.7になり、1年間5台を維持していたらしい(数値は旧基準。現在の基準値に換算するには約0.3を加算して下さい)。そんな経験を経て先の本などを世に問うたというわけです。(追記)

そんな人物が急性心筋梗塞で亡くなったということで、糖質制限反対派は色めき立ち雑誌や電子メディアなどで、それみたことか糖質制限をすると命に関わるんだ、等というコメントをしています。でもそれらは全く科学的ではありません。

まず、誰でもいつかは死にます。それが特定の原因によるものであることを云うためにはきちんとした調査や診断が必要なのに、食事方法1つだけを取り上げて死因だと断定する人は自らが真っ当な科学者や医者ではないと云っているようなもの。

たとえば心筋梗塞で亡くなる人の3分の1が糖尿病といわれていますが、糖質制限を行っている者で心筋梗塞での死亡が何%いるのか、しなかった者と比べて割合が多いのか少ないのか、そんな比較をしない限り糖質制限との関係について真相は不明です。そんなデータも無いところであれこれ云うのは科学ではありません。


左から3分の1辺りに「桐山秀樹は糖質制限で死んだわけじゃない!」というタイトルあり。

左から3分の1辺りに「桐山秀樹は糖質制限で死んだわけじゃない!」というタイトルあり。

さらに厄介なことに、ここ数年の桐山秀樹さんは糖質制限食ではなかったらしい。奥様の吉村祐美さんが文春の2016年3月3日号で明らかにしたところでは、朝から果物や野菜ジュースを飲み、お昼にはパスタやうどん、晩は玄米と普通のおかずだったとのこと。これではとても糖質制限とは云えません。江部医師が云うまでもなく、「糖質制限食の範疇(糖質摂取が130g/日以下)からは、外れています」

糖質制限から外れてしまえば、糖質制限をしたから云々という話には到底なり得ません。それにしても、なぜ桐山さんはそんな食生活をしていたのか。これでは氏が著書で主張している事と大きく矛盾してしまうじゃないですか。

糖質制限を実践していた人がだんだん糖質を摂食するようになるというのはときどき聞きます。もともとご飯やパン、麺が好きだったのでどうしても止められない、というのはまぁ人情です。体の様子を見ながら少しずつ食べたいという向きもあるでしょう。炭水化物への執着心が薄れた私でも時々羽目を外してしまいますから(自爆)、まぁ分からないでもありません。ガチな修道僧でもない限り、個々人のルールというかタガのコントールの範囲で食後血糖値を抑えていくというのがいいのではないでしょうか。

ここ数年桐山さんが糖質制限とは云えないような、自著とは異なる生活を送っていたのはまことに残念です。でも、その裏取りをせずに糖質制限だから心筋梗塞になったと囃し立てるニセ学者やマスメディアには根拠なし。むしろ、そんな非科学的な姿勢で糖質制限に反対する不埒な輩を改めてあぶり出したのは桐山さんのおかげ、と云えるのかもしれません。

いずれにしても、桐山秀樹さんが亡くなったのを糖質制限と絡めて考えるのはどうやら的外れ。一方で、5年前彼が糖質制限で死の淵から舞い戻ってきた経験や実践を本のカタチで残したことで多くの人が糖尿病治療の間違いに気づき、糖質制限の道に励まされた事実は揺るぎません。私もその1人でした。ご冥福をお祈りする次第です。

(追記)私は桐山さんとほぼ同じ身長。2012年に食後血糖値の大幅アップと戻りの悪さに気付き、糖質制限を始めた時の体重は68kg、ウエスト91cmでした。それが体重は10kg減、ウエストは10cm以上のスリム化。それまでご飯好き好き人間だった私でも1年もすると執着心は薄れました。