バイロイト

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cd328バイロイトといえば音楽祭。ワーグナーが自作を演奏するために劇場を作り、音楽祭を始めたのですが、ナチス政権下ではユダヤ人音楽家を弾圧排斥した舞台ともなりました。
そのバイロイトで2年前、イスラエルの室内管弦楽団がワーグナーを演じたとか。なぜか。中川右介さんの解説が素晴らしい!

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ドイツ中部の都市バイロイト。『クラシックジャーナル』編集長の中川右介さんによると、2011年7月26日このバイロイトの名前を冠した音楽祭でイスラエル室内管弦楽団がワーグナーの「ジークフリート牧歌」を演奏したとのこと。バイロイトにイスラエルの楽団が来たのはこれが始めてでした。(週刊金曜日 3/22 2013 936号)

バイロイト音楽祭はワーグナーが自分の作品を演奏するために作ったもので、ヒットラーの独裁政権がその栄光を演出するのに一役買ったイベントでもあります。また、この音楽祭ではユダヤ人音楽家を排斥してきた歴史もあり、その場所でワーグナーを演じるなんて、イスラエル人にとっては陰鬱で複雑な気持ちにならざるを得ないところ。

実際のところ楽団員の中にはホロコーストの被害者親族がいましたし、イスラエル国内では行くな、演奏するなという声が挙がり、国会でも問題になったとか。でも、そんな反対の声の中、イスラエル管弦楽団はイスラエル国内ではワーグナーの曲は練習しないという配慮をした上でバイロイトへ赴き、ワーグナーを演じたのでした。管弦楽団はいったい何をしたかったのでしょうか。

ユダヤ人を弾圧排斥したナチスのドイツ。一方で、建国以来ワーグナーをタブーにしてきたイスラエル。これではかつてのナチ政権同様、イスラエルもいっしょじゃないか、ホロコーストは忘れてはならないが、ワーグナーはタブーのままでいいのか、・・・バイロイトでワーグナーを演奏することで、イスラエル室内管弦楽団はそう云いたかったのだ、というのが中川右介さんの解説です。しばし絶句。

続けて、中川さん曰く、

国家は音楽家を庇護し支援し籠絡し、そして束縛する。

とのこと。これまた重い。

音楽家の箇所を作家や画家、写真家、あるいは学者などに置き換えても文意はそのまま成立します。いやいや、創作活動に留まりません。個人の生と国家との兼ね合いが問われる時代は、大なり小なりいつものこと。このことを自戒しておかないと、また暗い時代を繰り返してしまいます。心に留めておきましょう。

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