阿武隈共和国独立宣言
2012/12/27
今年私が読んだ本のベスト3の1つ。ポスト3.11つまり大震災と東京電力福島原子力発電所の事故に端を発する状況を物語化した傑作フィクション。帯に「菅原文太さん推薦」とあるのが内容を象徴しているようで面白い。もっと早く紹介しようと思っていたら、糖質制限に夢中になって年末の年末にまで遅れてしまいました。すいません。
村雲司「阿武隈共和国独立宣言」(現代書館 2012)
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舞台は福島県相馬郡阿武隈村。といってもこれは架空の村です(念のため)。2011年3月11日の大震災に続く東京電力福島第一原発の事故で、この村は悲しいほどに汚染され住民は土地や生活を奪われてしまいます。これは現実に起きていることと同じ。
土地を奪われた民は理不尽な政府の対応に業を煮やし、自らの尊厳をかけ村を国家から独立させることを画策します。これが本のストーリー。原発事故で大地を壊滅的に汚染されてしまった彼らが使う「武器」とはいったい何か? それがなぜ日本国を震撼させたのか。そして、この不自由な国で独立を目論んだ彼らの運命や如何? テンポよく進む話の最後で読者は、いやおうなく国や地域そして国民とはいったい何者なのか考えざるを得ないでしょう。
これから読もうという人のために詳しい筋は紹介しませんが、私自身、ポスト3.11において待っていたのはこんな話だった、そんな親近感を覚えてしまいました。
新宿のフォークゲリラから一気に現代へ繋がる筋立ては著者の年代のなせるワザでしょうか。私自身は79年のスリーマイル島原発事故の時、原発事故はやっぱり起こるんだと認識し、毎週のごとく京都の街中をデモっていた世代ですから、年代的には少し後。この辺は読者毎に印象が違うかもしれません。
残念なことに、80年代以降、世間の危機感は時間とともに風化し、チェルノブイリ原発事故でまた注目を集めても趨勢は原発イケイケで変わらず。去年の東電福一原発事故で脱原発の機運は今まで以上に盛り上がっていますが、次の一手はどうしたらいいのか? この本は(著者の思惑の有り無しにかかわらず)そのことに対する1つの解、それも特殊な解を提案しているようにも感じました。もし私たちが常識の枠を超えて個々人の生き方を問いかけ国の在りざまを問うなら、この本で展開されるようなことだってありじゃないかということ。
原発事故はまだ終息していないのに、マヤカシの除染で海洋汚染はどんどん深刻化していく現在。復興復興という名前の下に全国的に展開されるタカリ行政の数々。そんな現実に背を向けるように景気回復のかけ声だけで返り咲いた「続原発」の自民党政権。哀しくなるような現実と今までの政治の常識を覆すためにも、この本はお薦め。