新見正氏逝去

Water

土壌浄化法の考案者、新見正氏が1月14日お亡くなりになり、葬儀は19日に執り行われたとのこと。ご冥福をお祈り申し上げます。…


土壌浄化法というのは、毛管トレンチ方式をはじめとする下水処理のひとつの方法で、日本をはじめ各国で特許工法となっており、とくに農村下水道においては欠くことのできないものとなっています。その方式を考え出したのが新見正さんで、私にも少なからぬ縁がありました。

私が学生院生だった頃、この国で流域下水道計画が大々的本格的に進められ始める一方で、各地で処理場反対運動が起きていました。私自身、選んだ専門分野が近かったこともあり、琵琶湖を大規模に埋め立て大型下水処理場を建設することに対する環境訴訟の原告になり、流域下水道計画に否応なく巻き込まれていきました。

当時、下水道計画といえば、国や下水道事業団が進める流域下水道計画のこと。業者が談合したかのような高い金額の工事が平然と行われているのが、この世界です。水洗トイレが欲しいという庶民のささやかな希望を、権力者や土建屋さんが上手に利用して、巨大なシステムを構築し、彼らの利権に結びつけているのが現代の下水道事業だと云っても過言ではありません(きっぱり)。

そんな中、自然環境の保全力を活かし、もっとシンプルにそして確実な下の処理方法があることを指摘する人もいました。たとえば、宇井純さん(当時東大)の酸化溝システムや新見さんの土壌浄化法がそれ。とくに、新見さんの方式には私の知らない自然の浄化能力を活かしたアイデアが満載だったこともあり、直接いろいろと勉強させてもらう縁となりました。毛管浄化研究会が開催する米国の下水再利用状況の視察旅行にもごいっしょさせていただきましたが、それが私のはじめての洋行で、この時の記録の一部は同行した岡並木氏(朝日新聞論説委員)が当時の新聞に載せておられました。

その後、新見さんの主催する毛管浄化研究会に来ないかとお誘いを受けたこともありました。私が目指していたものとは少し違ったのでお断りしていましたが、承諾していたらいったいどんな人生になっていたのか。少し興味があるところです。
また、数年前だったか、どこぞの大学に冠口座を作るから、そこで教えてみないかとの有り難いご提案もありました。先生商売は向いていないからと、それも受けませんでした。今から思えば、新見さんが私にあれこれ手を差し伸べて下さるのをお断りしてばかり。勝手なデキの悪い生徒で申し訳ありませんでした。

30年前にはイケイケだった流域下水道計画も普及率が上がり、ほぼ一段落した感じもあります。でも、それに費やしたお金の返済で首が回らなくなっている自治体が多くあることを考えると、安価にそして事業の投資効果が素早く現れる小規模の下水道方式を選ばなかったツケは大きいと云わざるを得ません。環境への影響もこれからジワジワと現出してくることでしょう。

近代下水道は近代水道同様、巨大な管と処理施設で構成されるもの。はたして、その方式が未来永劫続くものなのか。もっと違うパラダイムがあるのではないか。水を使わないトイレは本当に無理なのか。そうでもないことが最近だんだん明らかになりつつあるような気もします。

少なくとも、固定化された巨大下水道システムという考え方に問題があることを明らかにし、それを乗り越えるためにどうしたらいいのか。新見さんの土壌浄化法は、その答を見つけるための大きな突破口となったのは間違いありません。私自身、毛管トレンチ法などを勉強しながら、ある時、水田も小川もみな等しく処理装置に見えた時の驚きを未だに忘れることができません。

いろいろと勉強させていただき、本当にありがとうございました。安らかにお眠り下さい。