ミルクと肉の違い

.opinion 3.11

肉牛の全頭検査をどうのこうのというニュースが流れています。静岡や信州まで放射性核種が飛散したことを考えれば、水や餌になる稲ワラや干し草が汚染されていないと考えるのは、(期待はわかりますが)明らかな誤り。ところで、肉牛と乳牛の餌に本質的な違いはないのに、乳牛が問題にならないのはなぜでしょうか? 

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既にご存じのように、国は原発事故後、飲食物摂取制限に関する指標で放射性セシウムについて「肉・卵・魚・その他」で500ベクレル/kgと定めました。これは「原子力施設から大量の放射性物質の放出を伴う事故が発生した場合」における特例措置です。その臨時の指標をまるで固定化した基準のようにマスコミが伝えるのは問題なのですが、まあそれは横に置いておくとしましょう。

農水省は4月中旬、乳牛に与える牧草1キログラムあたりの基準として放射性ヨウ素は70ベクレル、放射性セシウムは300ベクレル、肉牛に与える牧草の基準は放射性セシウムだけ300ベクレル、としました。でも、生体濃縮や生体半減期を考慮すると、これでは飲食物の暫定指標を上回るケースも出てくるはず。

案の定、7月あたりからセシウムに汚染された肉が全国に出回っていることがだんだん明らかになってきました。水や餌はいっしょなのに、肉牛が汚染されて乳牛は問題なし、というのは辻褄があいません。牛が汚染されても、ミルクは大丈夫なのでしょうか。それとも何かトリックでもあるのでしょうか。

(図は農水省HPから引用)

農水省のHPをみてみると、国の原子力災害対策本部から4月4日に公表されたルールでは、原乳の検査のための試料採取の単位は「クーラーステ ーション又は乳業工場単位で試料採取」されたものとなっています。

この方式なら「薄める」のが可能です。つまり、単独のミルク(原乳)がもし指標値以上に汚染されていても、このシステムなら「汚染は指標値以内で安全」とすることができるのです。おかわりでしょうか。

農水省指導では酪農家が出した個々の原乳ではなく、クーラーステーション(CS)でのミルクを測定するわけですから、個々の原乳が汚染されているかどうかは問いません。もし汚染された原乳をCSに入れてしまっても、比較的汚染度の低い原乳と混ぜて薄めてしまえば、指標値以下のミルクを作り出すことが可能です。肉牛は1頭1頭単独のお肉で放射線量をチェックしますが、原乳ミルクは混ぜるという日常作業ができるため、放射性物質による汚染をわかりにくくできるというわけ。ミルクはできても、肉牛は誤魔化すことができなかったカラクリはここにあるのかもしれません。

どれだけの業者がそういうテクニックで指標値をクリアしているのかどうか。そんな業者はいないと期待したいところですが、指標値を大幅に上回る稻ワラ・牧草、肉牛が次々に報告される状況の中で、乳牛だけが汚染を免れているとは考えられません。例えば大手ミルク業者なら原乳を福島近辺以外から集めることが可能ですから、汚染原乳を基準通過ミルクに変身させることも可能となります。

できるだけ安全なミルクが欲しい人は原産地表記がはっきりした汚染のないものを選ぶのが良いでしょう。関係業者ももしそんなことをしているなら、東電へ賠償請求をする方にエネルギーを割いていただきたい。

ちなみに、飲食物摂取制限に関する指標における計算根拠は、放射性セシウムで年間1ミリシーベルトの被曝を前提にしています。「飲料水」「牛乳・乳製品」「野菜類」「穀類」「肉・卵・魚その他」のそれぞれの項目ごとに1ミリシーベルトなので、全部合わせると年間5ミリシーベルトという被曝に相当します。

この暫定指標では安全性を確保できるとはとても言えません。他の要因による被曝も考慮するなら、せめて10分の1以下でないと個人的には受け入れることができません(つまり、牛肉や野菜を買う気が起きないということ)。

原発事故で飲食物が汚染されてしまった事実はあるとしても、より安全なものを食すのがベターという考え方をまず採用したい。ましてや、基準以内というだけで数値を発表しない安全宣言は認められません。500ベクレル/kg以下と言っても、490ベクレルなのか、10ベクレルなのかで話は全く違うからです。ミルクも原産地表記を睨みながら、薄める可能性がありそうなメーカー・製品には注意を払っていくべきだと考えます。

蛇足ですが、お米もこのような混ぜるテクニックを使いそうでコワイですね。