できるだけ遠くに それも余裕のある間に その2

.opinion 3.11

数日前から福島第一原発の半径30キロ圏内からの避難についての議論が出てきました。1昨日は避難所生活を強いられている38万人の集団疎開について政府が検討に入ったとの報道もありましたし、昨日は関西で数万人規模の被災者を受け入れる旨の話が出てきました。いずれにしろ、「屋内退避」を1日も早く改め、大胆かつ大規模な大疎開計画が始まることを願ってやみません。

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ここ数日の福島県やその周辺の被曝線量は事態の悪化を示しています。原子炉燃料棒の冷却がうまくいけば一休みでしょうが、うまくいくかどうかはやってみなければわからないので、冷却作業が何らかの理由で頓挫することを考慮した計画を用意しておかないと最悪の事態に対処できません。何といっても、今回は当局にとって「想定外」だらけなんですから(この「想定外」については日を改めて欺瞞性を明らかにします)。

また、周辺地域の放射線量が増えている現在、疎開を考える対象者は避難所に入っている人だけでは収まりません。政府は炉心溶融まで引き起こした福島原発について、半径20キロ圏内の住民に「避難指示」を出し、20~30キロ圏内の住民には「屋内退避」を指示しています。しかし、20キロとか30キロという数字に科学的根拠があるわけではありませんし(注)、30キロを超えた地域であっても放射線量次第で判断するべきでしょう。

しかし、厄介なことに、ゼロポイントである原発の破壊状況がどの程度なのかはっきりしませんし、今後どうなるかも予断を許しません。地形、風向、風量他気象条件によっても暴露の度合いは異なってくるでしょう。おまけに被曝する人の年齢によって危険性は異なります(妊婦<胎児>・乳児・幼児などは危険性が高くなります)。したがって、原子力資料情報室の説明の中で触れられている通り、どれくらい離れた処であれば安全なのか、数値として出すことができない、という言い分に理があります。

考えるべきは原発からの直線距離ではなく、被曝影響の度合いです。今現在すでに放射線被曝量の1時間値が10マイクロシーベルト以上なんて地域は明らかに危険ですが、その1桁下でもヤバイ。平均的な自然放射線被曝量の2.4ミリシーベルト/年(1時間当たりに換算すると0.274マイクロシーベルト)を比較基準とすると、既に茨城県北部でもその2倍以上の場所がちらほら。

当局とそれに呼応する学者たちはこれを危険と云わず、X線撮影と同程度とか少ないから…と説明しています。しかし、1時間当たりの放射線量とX線撮影とを比較するのは先に記したようにゴマカシそのもの。当局の見解を待つのではなく、まず個々人でそれぞれの地域での被曝を是認できるかどうか、考えるべきです。その場合、先に示した自然放射線被曝量の1時間値 0.274マイクロシーベルト(年間2.4ミリシーベルト)を比較基準としてはどうでしょうか?

30キロ圏外なら退避の必要なしと国は云っていますが、その指示を黙って聞くだけでいいのでしょうか。私はそうは思いません。事態が悪い方へ急変してしまうと避難対象区域や「屋内退避」区域が30キロからいっきに拡大されることになりかねません。そうなると、人の立ち入りが制限されガソリンや物資の輸送も止まり、自力避難が難しくなってしまいます。そうなる前に(ロジスティックスが切れる前に)、まだ体力や気力に余裕がある時にできるだけ遠くに退避するのがベターです。もし最悪の事態がやって来たら、退避場所の選択もできなくなるし、道路事情がさらに悪化し避難手段の確保も難しくなります。

放射線被曝に関していえば、そこが避難所であるかどうかは関係ありません。危険な被曝を受けている・あるいはこれから受けそうな地域ならどこでも「できるだけ遠くに」退避するのが得策です。

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一方、原発からの汚染が上乗せされても自然放射線と同じ桁くらいの地域なら(東京ほか関東平野の多く)、今の時点での避難退避の必要性はまだ薄いと思われます。でもまぁこれは個人の自由裁量。避難した人を恐がり過ぎだと云うことは誰にもできません。福島原発がこれからどうなるのかはっきりしないからです。個人個人のリスク許容量の問題にしか過ぎません。

たとえば、不安を抱え毎日を極度のストレスに苛まされる位なら退避疎開する方がいい。当局の出す命令や指示には一定の科学的根拠が必要ですが、個人の判断は何も科学的合理性だけで決まるものではありません。ここでも「できるだけ遠くに それも余裕のある間に」というスタンスでいいはずです。

先日東京から関西へ親戚を頼って疎開してきた人が、自分達だけ退避してきたことに少し罪悪感を感じるなどと云っていたのですが、私の答えは次の通り。そんな罪悪感を持つ必要はない、人は感情で動く、燃料棒の冷却作業が一段落して放射能の飛散が無視できるようになったら戻ればいい、リスク管理は個人個人の裁量だと前向きに考えてみたら? ということでした。

遠くに親戚も友人もない大勢の人たちは本来行政が責任持って疎開先を探し出すのが筋だと思いますが、待っていては先に進みません。幸い、全国の自治体等から疎開先提供の話が出ています。余裕がある人はそれらの提案に是非飛びつき自力疎開を考えてみて下さい。放射線の被曝線量が増加の一途を辿るような場所の自治体では、高齢や病気や障害等でなかなか動けない人を中心に疎開計画を始動させるべき時が来ています。期待や祈りだけでは問題の解消はできないことを肝に命じるべきです。

(注)
今回の事件で80キロ(50マイル)圏内は退避という基準を打ち出した米国は、本国で原発推進者達から50マイルに根拠なしとクレームを受けたそうです。一方で、原発に反対している団体は、米国でも(米国が日本での事故に際して示した)50マイル退避を打ち出せと問題にしているようです。(WSJ 2011/3/18)また、米国が50マイル圏退避を打ち出した背景には福島第一3号炉からの汚染を問題にしているとの指摘もあります。この3号炉はMOX燃料つまりプルトニウム239の入った再利用核燃料を使っているため、そこからの汚染は普通のウラン燃料より深刻だからです。現在やっきになって3号炉に水注入を急ぐのはそういう理由があるからですが、日本のメディアではそのことをきちんと説明していましたか?

この話に限らず、英国BBCや米国のニュースを見ていると、日本での報道とかなり雰囲気が違います。原子炉の被害状況にしても米軍が確認した話と東電や自衛隊が云う話はかなり違う。これもまた変。