ロジスティックス

.opinion 3.11

素人は戦術を語り玄人は兵站(へいたん)を説く。今、この言葉の意味の理解と実践が問われています。菅政権はしっかりしろと云いたいくらいだ。

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兵站とは前線で戦う兵士を支える物資の補給手段のことで、具体的には道路や通信、水・食料そしてエネルギーのサポートのこと。英語でロジスティックス。

お気づきのように、これは別に軍隊だけの話じゃない。今回の震災被害のように家を失った被災者とその生活基盤のサポートでも全く同じ。

とりあえず避難場所に移動した。着のみ着のままでも屋根のある場所で寝る処はなんとか確保できた。次に必要なのは水や食料そして暖をとる熱源など。その補給のためには通信手段を確保し、補給路である道路の整備やトラックなどの移送手段を準備しなければなりません。以前、地震の話を取り上げた時、「(必要なのは)耐震庁舎ではなく、地震が起きても遮断されない(すぐに復旧できる)最低限の通信交通手段の確保を第一にすべき」と云ったのはそういうわけです。

避難所を作ったら同時にロジスティックスを確保する。これができないのなら避難所は単なるハコでしかなくなり、早晩破綻します。

そういう意味で、今回の避難指示はおかしい。だって、補給路や補給手段が確保されない30キロ圏内に避難所を置くというのは全く矛盾しています。兵站を理解している者ならまず考えられない。最低限でも生活手段が確保されない場所に居続けるのはやはりマズイ。

幸いというか、そのデタラメさ加減に気づいた自治体や集団は既に独自にバスやトラックを用意して圏外に脱出していますが、それはきわめて妥当な判断です。国が云うから…等と云っていると見捨てられてしまうから、です。だいいち、20kmとか30kmなんて距離に科学的根拠はほとんどなく、単なる行政的な線引きでしかありません。

現在原発から30キロ圏内には13万人前後の人がいるとのこと。近隣自治体や地域などはそれらの方々を収容できるような方策を用意して欲しい(実際そういう方向で事態が動き始めている話もチラホラ出てきているのは非常に嬉しい)。また圏内の方々も国や県や市の言い分に黙って従うのではなく独自でも何でもいいので、できるだけ遠くに脱出する手段を模索してほしい。

ちょうど今読んだ産経新聞インターネット版に「仮設無意味、被災者を安全な地域に移せ」という橋下大阪府知事の言い分がありましたが、まさにこの兵站を語っており、全く同感です(彼の大阪府庁の新庁舎移転計画は地震対応としては全くマズイと思うけど)。

建物だけ用意して避難所を用意できたなんて云ってはなりません。避難所とは補給手段の確保とパッケージでないと意味がないのですから(きっぱり)。

蛇足ながら、私がこのロジを知ったのは学生時代に水の再生利用の勉強をしていた時のこと。関連文献を漁っていたら、よく出てくる出典元の1つがUS Corps of Engineers。何のことだかわかります?日本語でいえば「米軍工兵隊」。戦場でどうやって水を確保するか、そういう類の論文でした。ドンパチの背後にあるロジスティックス。でもそれらがないとモノゴトは全く動かない。そのことを政策決定者は理解してほしいものです。