同じことは繰り返す

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世界経済を破綻させる23の嘘ノーベル家が「経済学賞」にノーベルの名前をつけるのを反対しているとか。というのも、「経済学賞」はノーベル記念スウェーデン国立銀行賞というのが本当の姿だから。ノーベルが生きていたら、金融工学なんて怪しげな学問に賞を与えるのを反対したに違いないという話もあるようですが、その受賞者が参画したLTCMが破綻したのはよく知られています。でも、その後の話は知りませんでした。

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ハジュン・チャンさんの「世界経済を破綻させる23の嘘」の中にLTCM以降の関係者の動向がでていました。それによると破綻したのはLTCMだけでなく、その後に関わったものもやられているということでした。

ロバート・マートンとマイロン・ショールズが”経済学賞”を受賞したのは1997年。元ソロモンのJ・メリウェザーがこの2人らと組んで作ったのが巨大ヘッジファンドのロングターム・キャピタルマネージメント社(LTCM)。世界中から客を集め、優秀な成績を上げていたはずだったのに1998年のロシア危機で破綻。翌年破綻。”ノーベル賞”の理論でも相場には勝てない・破産することを立証した事件でした。ここまではよく知られた話。

その後メリウェザーは新たなファンドを立ち上げましたが、先の2008年のサブプライム危機でほとんど破綻してしまったことは既に触れた通り。でも、他の2人はどうだったのか。

チャンさんの本によると、ショールズは投資家を集めPGAMなるヘッジファンドを立ち上げていました。ロシア危機のようなことは特別だから普通は起こり得ないことだと勘違いしたままだったようで、2008年に破綻・解約停止という措置に陥ったそうです。何とかは死んでも直らないというヤツですわ。

ヒトが合理的行動をとるという仮定や発生事象が正規分布になるという話が現実世界で通用するということ自体、関係者は変だと思わないんですかね〜。いつも不思議です。

一方、マートンの関与するトリンサムグループも2009年1月に破綻。同じミスを2回繰り返すというのは、「最初のミスはミスでさえなかった」、「マートンとショールズは自分が何をしているのかよくわかっていなかったのだ」(チャンさん)ということ。この話を知ったのはチャンさんの本が初めてだったのでちょっとびっくり。金融界との繋がりが深いメディアが触れたくない話なんでしょね。

今でも金融工学は悪くない・理論も問題なしと言い張る学者や関係者は多いようです。たとえば、アイスランドが金融立国で1人当りのGDPが大きくなった、日本も是非真似すべきだとご託宣していた某有識人は、アイスランドの破綻は金融工学の問題ではないと断言していました。そのアイスランドの手法とはほとんど詐欺まがいのお金儲けだったこと、その結果国家破産に等しい状況に陥ったことはは既に知られている通り。その有識人はさほど反省しているようには私には見えません。

二度あることは三度あるというから、この手の輩のファンドがまた現れ、そして破綻する、あるいはどこかの国が破産する運命を辿る等というのはまだまだ続くことでしょう、きっと。

ところで、ハジュン・チャンさんの「世界経済を破綻させる23の嘘」は実に刺激的で内容が濃く、普通なら1冊1〜2日程度で読み流す私が既に1週間も抱え込んでいます。常識は疑えというか、なんでこんなことに気づかなかったのかとびっくりするような話が満載。おいおい紹介するとして、超お薦め。