ピアノのタッチ
2024/12/14
次は辻井伸行さん。彼のピアノはかれこれ10回以上コンサート会場で聴きました。もともと連れ合いが大ファンで、その付き添いでコンサート会場へ行ったのですが、初めて聴いた時にCDとは全く違う臨場感が素晴らしく、驚きました。その後、聴く度に円熟味が増すのでいったいどこまで進化していくのか、そんな興味もあり、今年も数回足を運んだ次第です。
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まずCDレーベルの話。今年ドイツグラモフォンが日本人ピアニストとして初めての専属契約を辻井さんと結び、録音盤を作ることを発表。既にCDは11月末にリリースされました。
さて当日の辻井さんのピアノを聴きながら連れ合いがこの前の音と全然違う、と言うのです。たしかに素人耳の私もそう感じました。
この前というのは、5日前に同じホールの同じピアノで鈴木慎崇氏が演奏した音です。その時はHIMARIさんの伴奏でピアノソロではなかったのですが、たしかに音の響きが違います。
曲目が違うとはいえ、同じ会場(いずみホール)の同じピアノ(スタインウエイ)なのに、弾き方によって音がこれ程違うものなのか、と思いました。いずみホールは室内楽の演奏に向いている会場で音の響きも大箱よりもずっと心地よく聞こえる場所ですが、会場の音響効果を活かせるかどうかは演奏者の耳にかかっているのかもしれません。
私思うに、5日前のピアノ伴奏の前半部分は音が大きく響き過ぎてヴァイオリンに被さってしまいました。でも、鈴木さん、後半はピアノタッチを柔らく変更して会場に合わせてきたので心地よく楽しめました(さすがプロ)。
一方、辻井さんは耳が頼り。音がどのように会場に響いているのか、辻井さんがどのように判断して調整しているのか、私には知る由もありません。でも、他のピアニストとは違った世界があるのは間違いありません。大・小、クローズ・オープン、いろんな会場で辻井さんのピアノを聴いたことがありますが、いつも心地よい音を響かせるのはたぶん会場の音響を確認しながらタッチを調整して演奏しているからでは、と改めて思った次第です。
とにかく、いつもながら素晴らしかった、・・・と云いたいところですが、前半の完成度が素晴らしかったのに比べ、後半のベートーベン「ピアノ・ソナタ 第29番《ハンマークラヴィーア》」はリキが入り過ぎていたのかも。グラモフォン契約の初レコーディング曲で、2009年にヴァン・クライバーンで優勝した時に演奏した曲でもあり、思い入れも格別なのかもしれませんが、自家薬籠中のレパートリーになるにはもう少し時間がかかるのかもしれません。
まぁワインのグランヴァンが時間を味方にして円熟味を増していくのを楽しむように、辻井さんのこの曲も数年後にまた聴きたいものだと考えた次第です。と思ってCD盤を聴くと素晴らしい演奏なので、当日はやはり気合いが入りすぎていたのかも。
既に来年3月のリサイタル(大阪シンフォニーホール)のチケットをとりましたし、9月のピアノフェスティバル(河口湖)にもまた出かける予定で、2025年も辻井さんのピアノを存分に楽しみたいと思っているところです。
(追記)来年5月のHIMARIさんのリサイタル、25日軽井沢大賀ホールのチケットはあっという間に完売。決済画面まで行きましたが、タッチの差で「なし」と云われてしまいました(残念)。