細川護熙さんのゲルニカ

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細川護熙さん。内閣総理大臣を辞職した後、60才を機に政界を引退し、晴耕雨読+陶芸の生活に入った人ということまでは知っていました。その後、書画も手がけるようになり、龍安寺へ雲龍図の襖絵40面を寄進したことを最近知って、どんなんかな~と個展へ行ってみました。雲龍図の襖絵や陶芸作品も味があってなかなかのものですが、それより何より衝撃を受けたのが《百鬼蛮行ー私のゲルニカー》でした。
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2022年2月24日にロシアがウクライナに電撃侵攻したと知ってすぐに細川護熙さんが描き始め、3週間かけて完成させたという《百鬼蛮行ー私のゲルニカー》。先日、丹後の琴ヶ浜へ行く途中、和久傳ノ森にある森の中の家(通称、安野光雅美術館)で開催されていた「細川護熙 美の世界」展でこの作品を初めて見て衝撃を受けました。

細川護熙《百鬼蛮行ー私のゲルニカー》(The New York Times Style Magazine : Japan 2022/6/28から転載)

旧ソビエト連邦時代のチェルノブイリ原発の大事故の後、同原発をコンクリートの分厚い壁で塗り固めて放射能を閉じ込める象徴とした「石棺」。The New York Times Style Magazine の細川護熙さんへのインタビュー記事によると、

「私にとってウクライナといえばチェルノブイリ原発です。あの『石棺』にもろもろの邪悪をすべて閉じ込める、という構想はすぐに固まりました。武器や戦車、兵士だけでなく、よく見ると鬼や龍のような、日本的、あるいは仏教的なモチーフも構わず描いています。一方、大地には黄金の麦畑、上空には青空をと、ウクライナ国旗が象徴するものを背景にしました」

とのこと。数か月前どこかで読んだ文章の中に「日々のお金の心配がなくなったら何をしますか」という問いがあり、「自分の好きなことをする、旅をする、美味しいものを食べる・・・」等というありきたりな答が列挙されていました。しかし、細川さんは全く次元が違いました。戦争がダメだというのは誰しも同じでしょうが、見ている世界が違うというか反対の意思表示のやり方が違うというべきか。とにかく人間のサイズの違いを思い知らされた感じです。

この絵は、2022年6月に東京のポーラギャラリーの個展で展示してウクライナ支援の募金集めをした後、何ヶ所かの地方の美術館でも展示されたとのこと。できることなら、若い人たちが沢山訪れる金沢21世紀美術館などで常設展示してもらいたいものです(IZ)。