ブルーベイビー 井戸水 大学病院

Water

20日晩から水道水絡みでとんでもないニュースが2つ。まず、群馬大学付属病院で乳児10人がメトヘモグロビン血症になったとのこと。粉ミルクを病院で使っている汚染された地下水で溶いたのが原因らしい。もう1つは大阪大学付属病院で水道水と地下水の配管が誤接続され、トイレ洗浄水や冷却用水に使う水を28年間飲み続けていたこと。どちらも国立大学法人の付属病院だという共通点に根元的な問題が潜んでいるような・・・。

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まず群馬大付属病院の事件。入院中の乳児10人がメトヘモグロビン血症を発症。敷地内の井戸から汲み上げた地下水が基準を大きく上回る硝酸性窒素を含んでおり、その水を粉ミルクを溶かすのに使ったことが原因らしい。

出典:上毛新聞 2021/10/21

ヘモグロビン(赤血球の成分、赤色素たんぱく質)は酸素を体内に送る運送屋みたいなもの。体内で亜硝酸塩に変化する硝酸性窒素は、このヘモグロビンと結びつき酸素を送るのを阻害するため酸素欠乏に陥るというのがメトヘモグロビン血症。

体内に酸素を十分に送れないと血色が悪くなることから、青い赤ちゃん(ブルーベイビー)という名前がついています。

日本でも過去に今回の群大のような事例が起きており乳幼児の飲用には細心の注意を払うべきところですが(水質基準は成人を基本にするため)、地下水の硝酸塩濃度のチェックが疎かになっていたのか、それとも急な汚染があったのでしょうか。

群大は「病院での水道水の使用を中止し、詳しい調査を継続。安全が確認されるまでの間、各診療科の外来を休止」するとのこと。乳児は快方に向かっているのが幸いでした。

硝酸塩類の地下水汚染は一般に肥料や糞便からのものだとされています。同様の地下水利用は日本にたくさんあるのに、「このような事例が生じるおそれは極めて少ない」という農水省の解説は農政保護か責任逃れなのか。

ちなみに拙著では以下の通り。

(前略)欧米では水源水の硝酸性窒素汚染が著しく進行している。この水質汚染はそのまま水道水の硝酸塩増加に繋がり、メトヘモグロビン血症の原因となる。とくに、プルーベイビー症として乳幼児に影響があるのはよく知られた話だ。・・・(有田『あぶない水道水』p.36 1996年)

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次に阪大付属病院の事件。報道によると、新しい病棟を整備しようとしたら経路不明な配管が見つかり、その接続を調べたら上水(水道水)と井戸水処理水の配管が誤接続されていたことが判明したとのこと。病院では井戸水を簡易処理して「トイレの手洗い場や職員控室の飲み水、手洗い」に使っていたのですが、間違ったまま28年間も飲料水として使っていたのです。(幸い処理水の水質が良好だったから被害はないと弁解しつつ)阪大は該当箇所の飲用を停止して調査をしています。

実は水道管の誤接続はよくある話で、マンションなどでは上水管と下水管とを間違えて接続する事件がときどき報じられます。そういう場合は水質の違いですぐに判明しますが、今回のケースでは水道水と簡易処理の地下水の水質にそれほど違いがなかったためか誤接続がわかりにくかったのでしょう。でも定期的な配管メンテナンスに過失があったのは云うまでもありません。

ところで私が気になったのは、どちらも旧国立大学の付属病院という点。そこに何か共通点はないのかどうか。

今回話題になった病院で地下水源を使うのは経済性だけでなく、非常時の水源を確保する目的があるからです。たとえば地震などの災害時には水道管が破損し、水道水が手に入らないのは阪神淡路大震災の時に経験した通り。そのため、水道水とは別に地下水を自己水源とする対策が採用されてきました。でも、その自己水源には自前の管理が要求されます。

今回の2つの大学病院では自己水源のメンテナンスがきちんとなされていたのでしょうか。国立大学は2004年から独立行政法人(国立大学法人)になっていますが、必要な業務にきちんとお金を使っていたのか、という疑念が浮かび上がってきました。

厄介なことに水質検査や維持管理が社会問題化するのは何か事件が起きた時。ふだんは裏方で陽が当たらない業務は一般に予算削減や事業整理の対象になりやすい。官僚的ネオリベ的な効率優先の事業見直しでメンテ業務の縮小や関連エキスパートが職を追われることはなかったのか。

今回の場合、群大ではきちんと水質検査が行われていなかったのはなぜか。水質を管理するエキスパートはいたのでしょうか。一方、阪大の誤接続工事については、なぜ管路メンテナンスが28年間もなされなかったのか。原因はともかく、どちらも水質管理や維持管理業務の軽視は明らか(きっぱり)。

最後にもう1つ。地下水などの自己水源を持つ大きな病院は全国にもそこそこあります。誤接続の解消はもちろん、早急に水質管理の現状把握に努めた方が良さそうです。