元福井地裁裁判長の「私が原発を止めた理由」

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樋口英明さんという元福井地裁裁判長が「私が原発を止めた理由」という本を2021年3月に出版しました。実はこの樋口さん、2011年3月の東電原発事故(福島)までは原発の安全性に疑問を持っていなかったとのこと。でも、2011年11月に提訴された大飯原発(福井県)の運転差し止め訴訟を裁判長として担当することになってから勉強し、「原発事故の被害は甚大なのに、原発の耐震性は極めて低い。だから原発の運転は許されない。」という結論に至ったとのこと。一気読みできて、お勧めです。

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いまだにこの国には原発が必要かどうかという議論があります。でも、それ以前に、原発というものが地域喪失・国家喪失の破局的な状況と秤にかけられるようなものかどうか、なぜ考えないのか。ドイツなどが指向する未来をなぜ日本では選べないのか。東芝や日立などの未来が怪しいのと同様、この国自体がオワコンな状況にあることを示しているのではないかと思うこの頃。

さて、この本の冒頭、2011年3月の東電原発事故(福島)の概要がコンパクトにまとめられています。これが秀逸。東電原発事故については不運が重なったと思われていますが、実は奇跡がいくつもあった。「2号機のベントが出来ず格納容器の圧力破壊の危険が高まっていたが、壊れない筈の格納容器から圧力が漏れて大爆発を免れた」とか「定期点検中の4号機の核燃料貯蔵プールの水が干上がって大災害になりそうだったのに、点検工事の遅れで残っていたプール水の仕切りがずれて流入した」とか。これらの奇跡がなければ、原発被害はさらに何十倍も重く広範囲だったものと思われます。

また、各電力会社が原発設計の基本としている「基準地震動」。電力会社はこれを越える地震はないという前提で原発を設計しています。でも、過去20年間に全国の20弱の原発敷地のうちの5箇所で「基準地震動」を上回る地震動が観察され、そのうちの1つが東電原発事故(福島)に繋がりました。原発設計の基本となっている「基準地震動」は全くアテにならないことが明らかです。

その上、原発は老朽化しています。25年を超える原発が多くなっていますが、中には40年を超える原発さえあります。製造後40年の車に乗っている人は極少数でしょうが、もし車が急に故障しても、後ろから追突されなければ命に別状はありません。でも、老朽原発が急に故障したら大災害を引き起こしてしまいます。

樋口さんの論理展開はきわめて明快です。
第1:原発事故のもたらす被害は極めて甚大。
第2:それゆえに原発には高度の安全性が求められる。
第3:地震大国日本において原発に高度の安全性があるということは、
   原発に高度の耐震性があるということにほかならない。
第4:我が国の原発の耐震性は極めて低い。
第5:よって、原発の運転は許されない。

原発に関して賛成の方も反対の方も無関心な方も、是非読まれることをお勧めします。