新型コロナウイルスの抗体迅速検査

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3月12日夕方、とってもビッグなニュースが飛び込んできました。「クラボウが新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗体検査試薬」を研究用試薬として3月16日から販売」するというものです。このため、急遽追加して第二稿としました。既に第一稿をお読みになっていた方は追加分ありということでご了解下さい。

ということで、その新たな試薬がなぜウェルカムなのか、について。世の中捨てたもんじゃないゾという話。

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中国の湖北省(武漢市含む)での新型コロナウイルスの感染拡大に対し、現地では簡易検査を実施しているというのは報道で知っていました。でも、具体的に何なのかは分かりませんでした。

遺伝子をチェックするPCR検査の簡易版なのか、それとも時間短縮する方法があるのか。40年前にPCR検査の濃縮操作であたふたしていた程度の私にはさっぱり不明です。

それがやっとわかりました。ウイルス遺伝子を調べるPCR検査ではなく、ウイルスに対する抗体をチェックする方法でした。つまりPCR検査の簡易版ではなく、測る相手が違うということです。

ウイルスに攻撃されると、私たちの体は抗体を作ってウイルスに対抗します。その抗体の有無をチェックするのがこの簡易法です(イムノクロマト法)(詳しくはクラボウのカタログをご覧下さい)。イムノクロマト法は広く行われている精度の高い検査で、今回、新型コロナウイルスに対する抗体を検出できるキットが発売されたということです。

クラボウの発表ではこの検査の正診率は90%以上とのこと。現在のPCR検査では偽陰性が3割〜6割とか言われていますから、それより信頼性は圧倒的に上です。症状が出ていて新型コロナウイルス感染の可能性がある場合は、まず今回の検査を受けて、IgM抗体が陽性なら「現在ウイルスに罹っている」と考えて慎重な経過観察が必要となります。IgG抗体だけが陽性なら「現在罹っているか、以前に罹ったことがある」ということになります。

ただし、今回の試薬は「研究用試薬」のため、検査会社などには販売されますが、普通の病院や医院や個人には販売されないとのことです。でも、厚労省が今回の試薬を保険適用したら、一般病院だけでなく診療所・医院・クリニックでも検査できることになる筈。今回の試薬、クラボウは中国の提携先企業から輸入するとのことですが、厚労省が保険適用するかどうかに注目です。

日本では厚労省がPCR検査のハードルを高くして、みんなの不安や不信を募らせてきました。検査を増やすと医療崩壊に繋がる、そう心配する向きがあるかもしれませんが、それは誤りだというのは既に多くの識者が説明している通り。簡易検査で感染の有無がはっきりする方が社会的には有益だと私は判断します。

それにしても、こんな検査がすぐさま開発されることにびっくり。13日現在クラボウの株価はストップ高で、こちら成行注文でも買えませでした(残念)。目利きの株屋さんは理解が早いというか、行動力が素早いというべきか。

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<もうちょっと詳しく知りたい方へ>
ウイルス感染があるとIgM抗体がまず上昇し、その後にIgG抗体が上がってIgM抗体は下がっていきます。ある人のIgM抗体とIgG抗体を両方調べて、IgM抗体だけ陽性なら感染の初期段階であると考えられます。両方陽性なら感染して少したっていると考えられます(これが感染後何日なのかは、実際の患者さんの経過を沢山集めないと分かりません)。そして、IgG抗体だけが陽性なら、現在ウイルスに罹っているか以前に罹ったことがある、ということになります(なお、病気としては治っていてもIgG抗体は長期間検出されると予想されます)。

また、ウイルスに感染しても症状が出る前の超初期の場合は、まだIgM抗体が上がっていない可能性があります。このため、症状が全くない人がこの検査をしてIgM、IgGともに陰性でも「ウイルスに感染していない」という証明にはなりません。感染の可能性が高い場合は1〜2週間後に再検査をしてみる必要があると思われます。