高次脳障害を知るために

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以前鈴木大介さんの『脳が壊れた』を後日紹介、と言っておきながら、すっかり忘れていました。その著者が新たに出したのが『されど愛しきお妻様 』。メルヘンチックなタイトルなのに副題は「大人の発達障害」の妻と「脳が壊れた」僕の18年間。何かおどろおどろしい。
先の「脳が壊れた」を読んでいた私は即購入し、一気に読み終えました。興味深い内容満載だったので連れ合いにも薦めると彼女も一気読み。というのも、この本には私たちの知らないびっくりするようなことが実によくわかるように書かれているからです。

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この本の出版を知ったのは、小室哲哉さんをめぐる過熱報道に対し鈴木さんが書いた記事を読んだから。その記事とは「KEIKOと同じ高次脳障害の僕が、小室哲哉不倫疑惑報道に感じたこと」(2018.1.26 現代ビジネス)。

まず、高次脳機能障害とは「かつてはひとりでやれていたことが、全然やれなくなっちゃう障害」であり、一般人には全く理解されていないとのこと。だから、その病気を理解できないメディアや私たちが、健常人の目線であれこれ言うことがいかに的外れで危険であるかということを指摘しています。詳しくは記事を読んでいただくとして、鈴木さんの結論は「彼(小室さんのこと)を責めるなんて、絶対にできない」というものでした。

既に鈴木さんの『脳が壊れた』を読んでいたので彼の言い分は納得。その上で今回の本は奥様とご自身についての話ということで尚更興味が湧き、即刻読んだ次第です。

されど愛しきお妻様 「大人の発達障害」の妻と「脳が壊れた」僕の18年間

肝心の本ですが、内容がとにかく凄まじい。ちゃぶ台返して即刻家出ということになってもおかしくないような状況の繰り返しの中で、よくもまぁ18年間夫婦関係が続いたなぁというのが第一印象。

でも、鈴木さん自身が脳梗塞から高次脳機能障害になり初めて味わった体験は、実は発達障害の奥様の不自由さと根源的に同じだったという下りは、読んでいて頭をブッ叩かれたような気分になりました。

がんばろうとしてもできない人、いくら努力しても続かない人を私たちはサボリな人とレッテル貼りをしてしまいます。また、人と話していても正面を向かない、あるいは目線が泳ぐ人を落ち着きがないダメな人と考えがち。でも、この本を読むと、本人が一生懸命やろうとしても脳がうまく機能せず、できない人もいることがよくわかります。

著者自身の経験ではスーパーやコンビニのレジで財布からコインを出すことができなくなったとのこと。そういう作業もある意味高度な脳の働きを要するからです。私はお店のレジで財布からお金を出すのに難渋している人をときどき見かけたことがあり、今まで認知症か何かと思っていましたが、よく考えてみれば認知症も脳機能障害。今後レジでパニクっている人がいても温かく見守っていこうと思った次第です。

それにしても文章力のある鈴木さんだからこそ、詳細で的確な解説ができたことは私たちには幸運でした。健常人にはなかなか理解できない世界で生きている人が世の中にいることを教えてくれるこの本を、是非一人でも多くの人に読んで欲しいものだと強く願うところです(強く強くお薦め)。