三ツ星コレクター

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食いしん坊の人、とくに海外レストランに興味がある人にとって藤山純二郎という名前は一度くらいは訊いたことがあるのではないでしょうか。というのも、フランスなどの☆付レストランの評価を求めてネット検索すれば、日本語なら必ず彼のサイトがヒットするから、です。
そのサイトをパラパラ眺めてみると、よくもまぁいろんな処へ出かけているんだなぁと感心しますが、このたびその彼の訪問記が登場。それが、『世界のミシュラン三ツ星レストランをほぼほぼ食べ尽くした男の過剰なグルメ紀行』です。興味深い話がいっぱいですが、読んだ後に感じた違和感についても触れておきましょう。

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ミシュランが世界のレストランを星付け評価しているのはご存じの通り。タイヤメーカーの故、当初は車で出かけていくことを前提にしたレストランやホテル案内という旅行ガイド的な位置づけでしたが、いつのまにかレストランガイドの面が強くなってきたようです。

おそらくその変化に拍車をかけたのはグローバル化。誰でも簡単に世界中を動き回れる時代になり、欧米だけでなくアジアや中東などの人たちも裕福になり旅や食にお金を使うようになったことでレストランの評価がクローズアップされてきたということでしょう。

世界のミシュラン三ツ星レストランをほぼほぼ食べ尽くした男の過剰なグルメ紀行

そんな中で、世界中のミシュラン三ツ星をほぼほぼ訪れたと云う藤山さんが本を出しました。曰く、119軒のうち114軒制覇(2017年版基準)とのこと。食に異様な執着心がある者はともかく、フランス人でも一生に一度行くか行かないかというのが三ツ星レストラン。世界中をほぼ制覇したというのはそれ自体凄いことで半ば呆れます。

名前から類推できるように著者は藤山愛一郎の孫。その祖父は自民党の総裁選などに財産を注ぎ込んだ名士ですが、孫の方は三ツ星レストラン巡りで食三昧。どちらも庶民感覚とはちょっと言い難い処が面白く、程度の差こそあれ血は争えないというところでしょう。

面白いのは彼自身がレストランや関連業界とコマーシャルな関係がないため、ミシュランに対して遠慮呵責ない批評を加えていること。ミシュランの星付けにはいろいろ問題があるんですが、料理評論家やフードコンサルタント等と称する人たちは商売絡みで本当のことが云えません。とくに日本版ミシュランが本家フランス版に比べて特異・奇妙・歪なことを指摘する箇所は我が意を得たり、でした。この点はとっても素晴らしい。


ただ読んでいる途中から違和感がジワジワ。どうやら著者のレストラン巡りは三ツ星訪問というイベントのコレクションにしか過ぎないのではないかという思いが強くなってきました。

世の中にはミニカーや切手の収集等のコレクターがいます。本にだって本を読むのを楽しむよりも稀覯本(きこうほん)集めを趣味にしている人がいるくらい。これらはモノのコレクションですが、百名山踏破みたいなイベント(コト)のコレクションだってあり得ます。

そういう意味で考えると、著者は食事を楽しんでいるというよりも三ツ星レストランの訪問自体を楽しんでいるような感じがしてきました。もしそうだとしたらもったいないし、何かしら哀しくなってきます。

できることなら、著者には気心許せる友人らと語らいながら食事をして欲しい。そうすれば本で紹介されるような美味しいお料理がさらに超がつく位に美味しくなり、もっと違う内容の本が上梓できたのではないかと考えるのは望み過ぎでしょうか。訪れた三ツ星の数では到底私は及びませんが、食中の語らいもまた食のマリアージュに繋がることを請け負います(きっぱり)。