またプール飛び込み事故(2016年)

プール事故

東京都教委によると、今年7月都立墨田工業高校で水泳の授業中に男子生徒が首の骨を折る大けがをしていたとのこと。教諭が「1メートルの高さにデッキブラシの枝を伸ばし、枝を超えて飛び込むように指示した」結果の事故でした。なぜそんな危険な指導を行ったのか、生徒の危険性をなぜ考慮しなかったのか、暗澹たる気分になります。(10/5追記)

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(以下の図と次の写真はFNN系TV報道(9/27)から抜き取りました)

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報道によると、

東京都教育委員会によると、2016年7月、水泳の授業で、男性教諭が3年生の男子生徒に対し、スタート位置から1メートル離れたプールサイドで、1メートルの高さにデッキブラシの柄を伸ばし、柄を超えて飛び込むように指示した。当時の水深は、通常よりも浅い1.1メートルだったということで、生徒は、プールの底に頭を打ち、首の骨を折る大けがをした。(フジテレビ系 FNN 9月27日)

この事件については、Yahoon!ニュースにTBSニュースが報道された直後に内田良氏(名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授)から的確なコメントがついていますので、それをまず紹介しておきますと以下の通り。

そもそも学校のプールは、溺水防止のために浅めにつくられています。そのため飛び込みで頭や首を打ち、重度障害となる事故が後をたちません。1983年度以降、学校のプールでは飛び込みにより、172件の障害事故が起きています。うち154件が頭や首の損傷によるものです。じつは中学校の水泳の授業では、飛び込み禁止です。しかし高校では段階的に指導してよいことになっています。はたして高校の授業で、飛び込みを指導する必要はあるのでしょうか。しかも今回は、教員がデッキブラシを使って、そこを飛び越えて入水するという指導です。その場合、飛び込みに勢いがつき、プール底に激突する可能性が大きくなります。問題のある指導だと思います。(出典はYahoon!ニュースですが、既に削除されているようです

内田氏のコメントは学校プールの構造上の欠陥、飛び込み事故の実情そして今回の事故の特異性に触れており、全く同意します。

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と思いつつ、TV映像を眺めていたらあることに気付きました。当該プールには飛び込み台(スタート台)が設置されていません。従来のプールは水深が浅いことに加え、飛び込み台が設置されていることで危険性が増しているのですが、このプールには飛び込み台はなかったというわけ。

私が『あぶないプール』で指摘してきた学校プールの構造上の欠陥とは大きく2つあり、プール水深が浅いことと飛び込み台の設置です。というのも、私が『あぶないプール』を上梓した20年前は水深が浅い上に飛び込み台が設置されているのが当たり前だったからです。これでは生徒のケガが起きても当然ですし、悲惨な事故は繰り返されていました。

風向きが変わったのは90年代半ば以降で、学校や教育委員会側が多大な賠償金を支払うように命じた判決があったり、拙著で危険性に気付いた現場教師の尽力もあり全国各地で飛び込み台の除去、あるいは新規プールでは設置しないという動きが進みました。今回の都立墨田工業高校プールに飛び込み台がない理由を私は知りませんが、都教委や学校側の誰かが少しは安全性を考慮した結果でしょう。(追記参照)

ところが生徒を指導する現場の教諭の側に安全性に対する配慮が欠落していました。1mの高さのデッキブラシを越えて飛び込めというのは飛び込み台の設置以上の危険があることは明白です。その行為がどんな結果をもたらすのか、問題の教諭には想像力が働かなかったのでしょうか。

飛び込み台を除去してもその効果を帳消しにしてしまう危険な行為をすれば意味がありません。飛び込み台を除去したところで溺水防止のためにはプール水深は深くできないと抗弁するのであれば、またいずれどこかで悲しい事故が起こります。そもそもプール授業の目的は何なのか、根元的な問いかけが求められているのではないでしょうか。

(追記)都立多摩高校で起きたプール飛び込み事故裁判判決(2003年)を受けて、東京都教委は「・・・01年度からスタート台を使った飛び込みを授業で禁止し、深さ1・35メートル未満のプールについて、固定式スタート台を撤去する改修工事に着手」とのことだったので、このプールでも飛び込み台がなかったのでしょう。自分で紹介しておいて忘れていました(10/5記)。