アデーレ

.Books&DVD…

adere「黄金のアデーレ 名画の帰還」を観てびっくり。クリムトの「アデーレ」はウィーンのベルベデーレ宮ではなく、現在はNYのギャラリーに展示されているとのこと。あの金箔いっぱいの中で少しやつれて憂いを浮かべた顔つきの女性が佇む、あの肖像画にまつわる物語です。

・・・

私がウィーンでこの絵を観たのは1996年7月2日、ほぼ20年前のこと。日本の蒔絵や屏風絵に通じるものがありますが、それもそのはずクリムトは日本の金彩銀彩屏風絵からヒントを受けていたらしい。ただ、西洋絵画でこの雰囲気は珍しく、一度観たら忘れられない独自性といってもいいでしょう。


当時の訪問時のメモによると「工事中で満足な展示なし。クリムト展をやっていなかったらスカ」とあるので全体展示はもう1つだったみたい。一方で幸運にもクリムトに関しては有名なものを含めいろいろ観ることができました。私はもの哀しげな「アデーレ」よりも「接吻」の方が好みでしたが、あの「アデーレ」が今はウィーンにないことを映画で知ってびっくりした次第です。

黄金のアデーレ 名画の帰還 [DVD]クリムトの「アデーレ」はウィーンにいたユダヤ系のアデーレ・ブロッホ=バウアーさんがモデル。映画はその制作風景から始まります。アデーレ御本人は1925年に死去。一方、アデーレの家に飾られていた問題の絵はナチスに奪われ、家族親族は命からがら米国やスイスへ逃げることになりました。

その絵は戦後そのままオーストリアのベルベデーレ宮に残されていました。というのも、アデーレさんがオーストリアの美術館に寄贈するという遺言を残していたから。つまり、私がウィーンでこの絵を見た時はまだオーストリア政府の財産だったというわけです。

ところが、ある時その遺言には問題があり、その絵画の正式な所有者は自分だと知った姪のアルトマン夫人がその絵を取り戻そうとします。オーストリア政府もナチス絡みの美術品は返却を進めるといっていたのですが、それは表向きで国民の宝ともいえる「アデーレ」は別扱い。

おまけにオーストリア政府はナチス時代の責任追及を拒み、返却はうまくいきません。ここでアルトマン夫人のサポートをするのはシェーンベルク弁護士、あの作曲家のシェーンベルクの孫。どちらもナチスの弾圧で家族を殺されたり、国外逃亡を余儀なくされたというルーツあり。


ぶっちゃけていえば、ナチスに弾圧された人たちとナチスの略奪品をちゃっかり自身の財産としたオーストリア政府との闘い。戦後がまだ終わっていないのは日本もオーストリアもいっしょ。また、卑劣な過去を無かったものとしたいオーストリア政府側につくのがユダヤ系弁護士達というのは、お金には主義主張関係なしという一面が窺えます。

この映画、最後まで緊張感をもって鑑賞できるのは脚本の妙。素晴らしい。ヘレン・ミレンもライアン・レイノルズも巧い。なかなか見所のある作品でした。