銀行に成り下がるな

.Books&DVD…

原発ゼロで日本経済は再生する (角川oneテーマ21)そう云ったのは城南信用金庫第三代理事長の小原鐵五郎さん。銀行は金儲けが目的、信用金庫は社会貢献が目的だから、というのがその理由。その意志を受け継いだのが現在の理事長・吉原毅さん。金融機関の長で初めて脱原発を訴えた人です。その吉原さんがお書きになったのが『原発ゼロで日本経済は再生する』(角川oneテーマ21新書)。なかなか面白い。

・・・

吉原さん、東日本大震災が発生するまでは原発肯定派でした。曰く、政府や電力会社、マスコミ、学者たちによって作り上げられた「原発の安全神話」を盲信していた人間の1人だった、とのこと。

その吉原さんは3.11の時、城南信用金庫という東京地盤の金融機関の理事長でした。すぐさま原発の危険性を理解し、一気に脱原発派へ。預金者をはじめ世間の人が本当に安心して暮らせるために如何なることをしたらよいのか、その熟考の上で脱原発に向けていろいろな行動を執ることになるのです。それらを紹介したのがこの本です。

wdrop13.11の後(そして今でも)無責任な対応を続ける東京電力に対し、まず城南信用金庫として保有していた東電のすべての株式と社債を売却。

そして、日本の電力のうち30%が原子力依存なので30%を節電すれば原発は不要になるのではないかと吉原さんは考えました(有田:全くその通り!)。そこで、城南信用金庫では店内の不要な電灯をすべて消し、空調設備も中止。さらにLED電灯を導入した結果、3.11直後の電力消費量は前月比30〜40%減になったとのこと。その実績から、みんなで協力しあっていけば原発は必ず止められるという確信に変わったそうです。

また、東電など電力会社で構成される電気事業連合会(電事連)がお金の力でマスコミや政府をコントロールしていることに気づきます。その資金源が銀行などの金融機関であることにも鑑み、先代の理事長の云った「銀行に成り下がるな」という言葉の重みを再確認。つまり、私たちの生活を守るためには銀行のような金儲け主義ではダメだということ。

wdrop23.11後、城南信用金庫では節電を進める個人や企業に対し、関連機器設備の導入には最初1年は金利ゼロにしたり、節電応援のための預金金利優遇などを打ち出します。一方、そうした信用金庫の脱原発メッセージを受け、取引先の製造業企業数社が節電グッズを開発したという話まで登場します。

原発が危険なものだとわかってもなかなか態度表明しない・できないのが、この世の中。大マスコミは電力会社のお仲間だから、城南信用金庫の表明や動きを取材しても報道しなかったり、まるでスタンドプレーのように扱って貶めそうという動きもあったようです。でも、吉原さんはめげません。そこが立派なところ。確信と根性がないとできません。こういう人が金融機関の理事長だったのは、3.11という大不幸の中のささやかな幸でした。

この本、原発を巡るいろいろな問題が整理されていて分かり易い。金融業を営む彼なりの視点もあり、読み応えあり。原発がなくても日本はきちんと前へ進みます。そのことを確信させてくれる本として、いまだに原発を止めると経済がうまく回らない等と考えている人に是非お薦め。

その吉原さん、来月6月には自ら定めた定年を迎えるようです。私とほぼ同年齢ですが、お互い人生はこれから。脱原発に限らず、今後ともいろいろご活躍されることを願っています。