色覚

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140120a色が見える、あるいは色を感じることができるのはどうしてなのか。モノクロ写真に興味を深めてくると、色彩の知覚についていろいろ知りたくなってきました。モノクロ話その3です。

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私たちが色を「見る」ことができるのは、小難しくいえば、瞳の中に入ってきた光が網膜(レチナ)にある錐体細胞で色情報に変換され、脳がその情報を色として認識するからです。そのメカニズムにはいろんな仮説があるようですが、光を受けて化学変化した錐体細胞内の物質が赤青緑(RGB)の刺激となって色を感じるという説が一般的です(出典はこちら)。

clspaceまさにこの仮説がデジカメの撮像素子の理屈でもあるわけですが、RGBの合成だけで自然界の色をすべて網羅することはできません。昔からネガフィルムとポジでは色のノリが違うとか、デジタルにすると色合いが違う、CMOSよりもCCDの方が色が綺麗だ等々と云われてきましたが、それもそのはずで、色の感応如何でそれぞれの色空間が違ってくるからです。所詮、人間を機械のようなものだと仮定するだけでは見た目とは一致しないというわけ。(右図は色空間、内側の白わくはsRGB、黒わくはAdobeRGB。コンピュータで作り出すRGBの合成色が全体の一部でしかないことがわかります)


面白いのは、動物によっては錐体細胞の種類や数が違うこと。たとえば鳥は紫外線を感じる錐体細胞があるため、見え方がヒトとは違います(どんな見え方をしているのかは不明)。桜の花は紫外線を反射しているといわれていますが、花や果実に鳥が群がるのはおそらく見え方が全く違うからなんでしょう。

140120bまた、犬や牛は錐体細胞が2種類しかないため赤と緑とを区別できないとのこと(色盲であるという話は迷信)。いずれにしても、ヒトが見える色の世界はヒトであることの特性の1つみたいですね。

ところで、そのヒトでも色覚異常の人は思ったより多いのです。データでは、先天性の赤緑色覚異常者は日本人で男性の4.5%、女性の0.165%の合計約290万人(出典はこちら)。男性に関しては20人に1人は同じモノを見ても違う色になっているということになります。ちょっとびっくり。

実際数年前に、信号機の赤が認識できない人が最近出てきているとの報道を聞きました。赤が赤に見えない人が車を走らせたり道を横断しようとすれば、とんでもないことになってしまいますが、まさにそれがこの色覚異常の実情です。昔は小学校などで行われていた色盲検査が、(病気と差別をごっちゃにした誤った判断で)ほとんど実施されていないことが原因らしい。困ったこっちゃ。


とにもかくにも、見える色が人によって違うかもしれないという現実は興味深い。大幅な違いじゃなくても微妙な差異があり得るわけで、要するに同じ景色が同じ色に見えていないかもしれないということ。だったら、感動の度合いも違えば表現する内容も変わってくるじゃないですか。

こどもの頃、モネやファン・ホッホ、あるいはスーラやシニャックなんて画家たちの絵を最初に見た時、ホンマにあんな感じに見えるんかいな〜と訝しがったものですが、色に対する見え方がもし違っていたとしたらあり得ることだなぁと改めて思う次第です(この件、いずれまた)。

モノクロ話に戻りましょう。現在のデジカメは1960年にコダックのベイヤー博士が考案した、撮像素子の各ピクセルに割り当てられた色フィルターの出力を合成することによって色を作り出すというベイヤー方式を採用しています(シグマのフォヴィオン方式は別)。

ところが、この撮像センサーから色フィルターをすっぱり取り払ってしまい、モノクロ映像だけを映し出すカメラを昨年発売したメーカーがあります。Leicaです。Leicaの説明資料によると、カラー情報を使わないことでより精度の高いイメージを作り出すことができるとのこと。たしかに「色による誤魔化し」はなくなっていますね。ストレートというか潔いというか、何かライカらしい。ある種の誇りというか矜持を感じさせます。(下図上はカラーデジカメ、下はモノクロデジカメ 出典はLeica Mモノクロームの解説資料より)

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なぜLeicaがそんな特殊なデジカメを売り出したのか。モノクロは古い・ノスタルジック等と考える一般層には受けそうもありませんから、カラーよりもモノクロを使いたい写真家のニーズに応えたのでしょう。でも、カラーが写るデジカメよりも高い値付けをしたところが、これまたライカらしいといえばライカらしい(苦笑)。

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