天才数学者はこう賭ける

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天才数学者はこう賭ける―誰も語らなかった株とギャンブルの話ケリーの公式ってご存じですか? 知らない? じゃ、シャノンの定理のシャノンという人物は? あるいはエドワード・ソープという人の書いた本を知りませんか? 私はこの本を読むまで、これら3つが密接な関係にあることを知りませんでした。びっくりするとともに内容の濃さに圧倒されてしまいました。この本はカードや株相場についてのきわめて興味深い考察を展開しています。

ウィリアム・パウンドストーン・松浦俊輔訳 (青土社 2006)



まず、ケリーの公式。これはギャンブルする時に有り金のどれくらいを賭ければいいのかを示すもの。煎じ詰めれば、エッジをオッズで割ったもの、つまり勝率を利益率で割り算したものが解だというのがケリー式の云わんとするところ。相場の本にもときどき登場しますが、これだけでは破産確率が異様に大きくなるので最近ではR・ビンスのオプチマルfなる公式もあります(これにも問題あり)。

シャノンというのは、情報科学の黎明期に数々の定理と伝説を打ち立てた研究者。ケリーとシャノンはベル研でいっしょだったので情報交換は日常的。パウンドストーンの本を読んでびっくりしたのは、シャノンがケリー公式を改善しながらラスベガスやウォールストリートで勝つための方策を地道に、それもかなるのお金をつぎ込んで研究していたという話でした。

ディーラーをやっつけろ!ではソープとは誰か。これまたギャンブル話が好きな人には有名な、ブラックジャック攻略法を解説した「ディーラーをやっつけろ!」なる本の著者で、本業は確率論の先生。本の中に攻略方法をいっしょに研究した科学者がいたことに触れられていますが、まさかそれがシャノンだったとは!びっくりでした。

本で展開される相場論議は並の株本とは毛色が全く違います。実在の事件紹介とその背後にあるリスクや確率論議が満載で、ノイマンやケリー、シャノン、ソープと続く情報科学の人脈が、一方では相場科学の人脈でもあったことがよくわかります。登場人物も上記人物に留まらず、ミルケンやジュリアーニ、あるいはマートン、サミュエルソン等のランダムウォークマフィアまで多士多彩。著者の人物表現の巧みさもあり、読み物としても非常に面白い。

でも一番の根幹はシャノンの相場研究で、たとえば、シャノンがマックスウェルの悪魔ならぬ「シャノンの魔物」を使って相場で儲ける方法を講演する下りが出てきます。思わず私もシミュレーションしかかりました(苦笑)。実に面白い売買手法ですが、これは読んだ人のお楽しみ。

サブタイトルは「誰も語らなかった株とギャンブルの話」。まさにその通りの内容ですが、この本を読んだからといって相場に勝てるかどうかは、優れた道具も使う人次第というべきでしょうか。逆マーチンゲールや資金管理の重要性が学べればオンの字かもしれません。

相場に関わる人だけでなく日常を確率的に考察するという意味においても有用な本です。株を売り買いしたら誰でも何億円も儲かる等と扇動するような(ホンマかいや〜という類の無内容な)本とは大違い。お薦めです。