新聞の時代錯誤

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新聞の時代錯誤―朽ちる第四権力新聞をあれこれ批判する人はたくさんいます。でも、紹介する本のような内部からの批判は重みあり。新聞記者でありつつ、新聞社の退廃と向かい合い闘っている著者の言い分は凄まじくも、現代の病巣の一つを見事に暴き出しているといえませう。

大塚将司 (東洋経済新報社 2007)


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株をやる人は日経新聞を読みなさい…そう薦める人がいます。また、そうだそうだと同調する人も多いはず。でも私に云わせれば、それはポン引きの言い分と集められたカモの錯誤にしか聞こえません。

日経新聞が顧客としているのは経済界であり、読者の便宜を図るために新聞を発行しているわけでもありません。日経記事を材料にして株取引を行うということは、しかるべく用意された提灯に群がってオコボレを頂戴するようなもの。未来の材料を探るのであれば、別に日経でなくてもいいのでは?…私はそう思います。財務情報などは日経が詳しいから必要なのだ…とおっしゃる人には、既にその手の情報は日経新聞ではなくEDINETみたいなインターネットサイトでもっと詳しく正確に入手できるといっておきませう。

著者は日経新聞記者。2003年に起きた日経子会社での不正経理事件に関して株主総会で社長を追及したことで懲戒解雇。でも法廷闘争でその撤回を勝ち取り復職。これだけで著者の言い分を聞いてみようと思いませんか。そう思ったら私と同じ。私はこの話を知って即、本を買いました。正解でした。

日経内部の宮廷政治、私物化の実態。朝日新聞はじめ新聞紙業界に巣くう利権体質。ジャーナリズムという言葉からあまりにもかけ離れた、再販制度への反対の意味などなど話題満載です。

1940年体制―さらば戦時経済この本では日経新聞だけでなく、朝日新聞や他の新聞にもメスを入れるともに、NHKにも食い込んでいます。どれも問題の根はいっしょであり、新聞が軍事当局と妥協した1940年体制から見ないと本質はわからないという著者の言い分には納得々々。本書に詳述されていますが、大新聞が生き残るために当局の報道統制を受け入れて生まれたのが現在の新聞の姿というわけ。その根はいまだに隠然と蔓延っているというべきでしょうか。そういえば、日本の経済システムは戦後にできたのではなく、1940年代だと喝破した野口悠紀夫さんの指摘と時代が同じなのも興味深い。

憲法改「正」やら国民投票法案やら、昨今のきな臭い動きに対して有効に手を打てない新聞やテレビに苛立つ人も多いのかもしれませんが(私もその1人)、この本を読むと、体制迎合の方が本質だということがある意味よくわかります。

私事ながら、自分が関わった事件において某新聞がとったトンデモナイ態度に新聞の本質を見ことがありました(この話はいつか触れませう)。大塚さんの本を読みながら、私の不安は既に内部で現実に起きており、それは杞憂ではなく、このままでは新聞は過去にそうだったように大政翼賛宣伝紙に変貌するのだろうなぁと思わざるを得ません。残念ですね。新聞がおかしくなる前に自己崩壊してもらう方がベターなのかなと思ったりもします。

さてさて、この本は、新聞報道が本当だと思いこんでいる人にはかなり厳しい内容となっています。新聞には信頼を持てなくなってきつつある人にはその根拠を提供してくれることでしょう。あるいは、新聞を前向き批判的に読みたい方にはその基準を提供してくれるはず。お薦めです。