接着剤に頼る社会は危険

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none先日、某トンネルの天井が崩壊し、通行中の車が潰れ死者が出るという悲惨な事故がありました。天井を止めていたボルトが上向きに打ち込まれていた、というのは常識外れな設計ですが、それを接着剤で留めていたから大丈夫だという考え方に唖然。遅ればせながら、その話について少し。

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下向きに力がかかるモノを下から打ち込んだボルトで支えるなんて、いったい誰が考えたのか。最初に知った時、唖然としました。そんなものがたくさん在るのなら、早急に改修の手当を行ってほしい。とくに中央高速道の恵那山トンネル(全長8.5km)はできるだけ早くしてほしいものだと願っていましたが、今年のゴールデンウィーク明けに実施するらしい。

それはさておき、接着剤。超強力な接着剤を使えば、つり下げボルトが外れることはないと考えたのでしょうか。これも変です。だって、接着剤には寿命があるため、いずれその耐力は低下し、最後には消失してしまいます。

問題の寿命ですが、以前調べたところ明確に指し示したものを見つけることはできませんでした。光や温度湿度などの環境条件に大きく影響されてしまうからですが、まだ接着剤の歴史が新しく、金属の耐用試験のようなチェックが難しいとくれば、20年先30年先にどうなるのかは誰にもわからないようです。

それなのに、まるで永遠の寿命、つまり永久的に接着能力が期待できるかのように土建施設で多用するのは明らかな誤用です。先日のトンネル事故ではそのことに関する反省がほとんど聞こえて来なかった。それはいったい何故か。接着剤の寿命のことを持ち出せば社会がパニックになるからではないでしょうか。

接着剤といえば、建築用合板や柱にもそんなものが大量に出回っています。木材をそのまま使うのはコストがかかるし、使い難さもあり、建築現場では板と材を接着剤で貼り合わせたものが好まれています。所謂、合板やボードという類のものです。

たとえば今、あなたが家を作ろうとしましょうか。合板なしで建てるというのはなかなか難しい。そういう仕様を追及すれば、昔ながらの木組みや壁で家を作ることになり、材料費人件費ともにコストはアップします。ちなみに、拙宅は合板なしで家を作りましたが、予想以上に難しかったことは、建築記録の箇所で何度も触れた通り。

拙宅がなぜ合板を排除したのか。15年前こちらが考えたのは、接着剤には明らかに寿命がある、その寿命が切れた時には耐力どころか危険な状態になるかもしれない、翻って接着剤に頼らない昔ながらの木組みをベースにするなら、安心感は増・・・、そんなことでした。

個人住宅だけでなく公共建築の現場でも合板・ボードの使用は当たり前ですから、現代建築とは謂わば接着剤頼みだといっても過言ではありません。そして、それは20年後か30年後か知りませんが、いつかトンデモナイ事態を招きます。でも、この危険性に触れる人は皆無に近い。なぜでしょうか。おそらく、近々の利便性を追求する一種の先延ばしなのでしょう、きっと。

土建構造物にはまだまだ接着剤頼みのものがたくさんあるのではないか、接着剤頼みの建造物はまたどこかで牙を剝くのではないか。その時の被害者はいったい誰なんだ。自分の家ならより安全なものを求めることができますが、トンネル天井のつり下げボルトまで注意を払わなければならないとしたら、それは無理というものでしょう。そんなことを考えると、トンネル崩落事件を知って恐ろしくなる次第です。

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