イワタニ その2

3.11

前回イワタニの意見をざっと眺めてきました。3.11の原発事故を無かったかのように装った原発再稼働への期待表明は、原発事故に遭遇した被害者そして被曝者、原発の危険性に気づき脱原発に目覚めた人たちの信頼を著しく奪ってしまいました。そこにはイワタニという企業の立ち位置や事業内容の問題点が見えてくるような気がします。その2では意見広告の背景に迫ってみます。

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そもそもイワタニという会社はどういう会社なのか。
会社のHPによると以下の通りです。

カセットこんろ、LPガスを中心としたエネルギー事業と、水素などの創業以来の産業ガス事業を基幹として、それらから派生した電子・機械、マテリアル、自然産業・食品など幅広い分野で事業展開を図っています。

ちょっと見では災害対応のカセットこんろの会社のイメージが強くて、わざわざ大枚払って新聞紙上で原発再稼働を意見表明するのはちょっと異質な感じ。でも、イワタニという企業の立ち位置と事業内容を仔細に見ていくと興味深いことに気づきます。

まず立ち位置。現在の社長は牧野明次という人物で、2007年度から関西経済連合会の副会長。現在2期目に入っています。関経連というのは関西在住の大手企業で構成される経済団体であり、その会長は現在関西電力の会長。副会長はイワタニ以外に、ダイキン、アートコーポレーション、近鉄、NTT西、パナソニック、レンゴー、川重、京都銀行、日生、住友電工、住金、阪急電鉄、三菱UFJフィナンシャルの面々です。

まさか会長の関電が大飯原発再稼働の意見表明というわけにもいかず、他の製造系大企業も露骨すぎて腰が重い。新参者のイワタニさん、あんたが代わりに意見表明してくれ、ってわけだったのでしょうか。

名だたる会社だらけの関経連の中で、イワタニは売上規模でみるとブービー賞。つまり、クジラの群れの中に鰯やサンマがいるようなもの。とすると、やっと関経連のボードに入り込んだ新参者の点数稼ぎという側面はなかったのか。

おまけに意見表明は原発推進の読売新聞でした。右系保守系の読者に対し、イワタニもしっかり原発推進に寄与しています、分かって下さい、という意思表示の意味もあったのかもしれません。

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もう一度イワタニという会社を眺めてみましょう。

この会社のメイン事業は、何と云ってもLPガス関連事業。

LPガスの卸・小売販売量は国内最大で、関連機器ではGHP、ボイラー、住設機器、家庭用ガス機器、生活関連商品などの販売を行う一方、マイホーム発電、 コージェネレーション、家庭用燃料電池、太陽光発電やLNG販売、さらにはDMEなどの新エネルギーシステムへの取り組みも行っています。

ここではたと気づくのは、原発が止まると困るのは電力会社だけではないという事実。石油関連産業も同じく困窮してしまうのです。思い出して下さい。「電力不足で停電になる」というのは一種の脅しであり、原発再稼働の本当の理由は、発電コストが高くなることで電力会社の利益がなくなってしまうことでした(経済界も関電も国もみなそうバラしてしまいましたもんね)。

簡単にいえば、原発で得られたはずの電力を火力発電で充当しなければならなくなると、その分石油やLPGが必要になります。原油コストは現在高止まり状態なので、火力発電を増やすと発電コストはうなぎ登り。ところが原油価格連動型の電気料金制度では簡単に電気代を上げることができず、電力会社は丸損です。だから、見かけ上コストが安い原発を使いたい、これが再稼働の本当の理由です(核燃料製造コストを省き、廃棄物処理処分費用を無視することで、見かけ上原発の低コストを作り出していることに注意)。

アブラの優先順位がどうなっているのか知りませんが、石油やLPGの用途が産業基幹エネルギーに向けられると、関連産業へ回される量や価格にも大きな影響が出てくるでしょう。イワタニが怖れているのはこちらかもしれません。とりあえず原発再稼働で(電力需要はともかく)石油需要でも改善してもらわないと自社の業績に大きな影響が出てくる、そんな心配です。

石油がないと成り立たない会社の宿命が原発再稼働を期待するという意見表明だったとすると、この会社もまた原発という化け物に寄生しているということに過ぎません。イワタニの事業内容をみていて、そんなことを考えてしまいました。

いずれにしても、イワタニは多くの人たちの信頼を失ってしまいました。原発再稼働でとりあえず業績を落ち込ませなかったとしても、信頼感の喪失は致命的です。一度失った信頼感を取り戻すには、とくとくと『被曝を強制する側』の言い分を説いた牧野社長の責任問題を問い、『被曝を強制される側』の人たちの艱難辛苦を心から理解してほしいと強く願う次第です。とりあえず、イワタニは不買。気に入った会社だったのに残念。