墜落!の瞬間

.Books&DVD… 3.11

墜落!の瞬間―ヴォイス・レコーダーが語る真実 (ヴィレッジブックス (N-マ1-1))この本の原題は、The black box、副題は、All-new cockpit voice recorder accounts of in-flight accidents。翻訳本の副題は「ヴォイスレコーダーが語る真実」。何か微妙に意味合いが違うんだけど、それぞれ本の内容を表しています。
ある相場本に紹介されていたので、この本を読んだのですが、パニックに陥った時にヒト(この場合、機長ら運行乗務員)はいったい何を考え、何をしたのかを知るには良い教材。その記録から私たちは何を学べるのでしょうか。

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飛行機のブラックボックスには、フライトレコーダーとヴォイスレコーダーの双方が入っています。箱はきわめて頑丈に作られ、海底に沈もうが山中の奥深く取り残されようが、付属のビーコンで位置を特定することができるので、事故の真相を探るため関係者は必死になって回収します。

蛇足ながら、9.11の時WTCビルに突っ込んだ2機の飛行機のブラックボックスは発見されていません。地上に落ちた飛行機でこの箱が見つからないというのはほとんどあり得ませんから、これは奇妙かつ異様です。噂ではFBIらしき者たちが回収した(そして事件を隠蔽した)という話もあり、9.11の闇の深さを示しています。

本題に戻りましょう。
最近のヴォイスレコーダーは30分のエンドレス記録になっているそうで、著者はいくつかの飛行機事故について、その最後の30分の音声記録を紹介しています。つまり、不時着や衝突直前の生々しい会話がそのまま。

事故原因は機体の老朽化、整備不良、点検時のミス、積載荷物のトラブル等いろいろですが、いったん起きてしまうと機長らの不手際や動揺も重なり、取り返しのつかない状態に追い込まれてしまいます。

厄介なことに、ほとんどの事故はあっけなく結末を迎えています。映画やドラマとは違い、スーパーマンはおらず、感動のハッピーエンドもありません。ホンマにあっけない。事故が起こると、こんなに脆いものかと思うほど、あっけない。

飛行機の場合、緊急時のマニュアルというのが整備されていて、事故が起きたらどういう手順で何をするかというのが明確に決まっているそうです。通常の事故対応としてはたしかに優れていますが、それは想定内の事故の話で、想定外の事故が起きたらどうしようもありません。

清掃時に計器の測定口を塞いでしまった事故の例では機長らが最後の最後までそれに気づかず、自動運転に切り替えた途端にアウトという事例も紹介されていました。だって、そんな不具合に気づく方が不思議ですからね。

要するに、想定した事態でも対処はきわめて難しい。想定していないような状況になったら、ほぼ対処は不可能だということ。実際のところ、過去の事故発生状況から考えると飛行機の事故リスクはかなり小さいので、それほど深刻に考えてなくてもいいのかもしれませんが、万が一の場合には運を天に任せるしかありません。

この本を読んでわかったことといえば、「飛行機事故は起きたらオシマイ」、「それでも起きたら被害を最小限にする方策を考える」なんてこと位でしょうか。でも、それは飛行機に乗るという行為が避けられない場合の話。

ところが原発事故では(ほとんど起きていないとはいえ、いったん起きれば)シビアアクシデントのシビア度〔過酷度)が全く違う。被害は搭乗者に限定されませんし、広大な影響範囲や影響人口、世代を超えた生態系への悪影響等を考えていけば、その破壊力は計り知れません。スリーマイルにしてもチェルノブイリにしても、そしてフクシマにしても、未だ問題は終わっていませんから時間的な影響も大。一方で、原発を初めから動かさないという選択肢を選ぶなら、想定内も想定外もなく一番安全です。

やっぱり、事故は深刻度・影響度の大きさで考えるべきで、ましてやそれなしでも社会が成り立つ以上、原発の安全を確保するために緊急時の対処方法の是非で論議するのではなく、原発選択の是非から考えるのが筋だと改めて思う次第です。