ヒロシマ・ナガサキとフクシマ その3

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内部被曝の脅威  ちくま新書(541)広島・長崎で、当日のピカドンに遭っていないのに体の調子がおかしくなったり、死んでしまう人が出てくる事実に気づき、内部被曝の問題に取り組んできた医者がいました。肥田舜太郎さん、その人です。
映画監督の鎌仲さんとの共著は内部被曝の基本を理解する入門書にもなっています。お薦め!

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映画「プライベート・ライアン」を見た某将校が「戦闘シーンがよく描けている、足りないのはニオイくらいだ」と云ったとか。映像だけでは血生臭さは伝わらないということなんでしょう。でも、文章でニオイを感じることもあるのをこの本で知りました。

ピカドンの当日、広島郊外戸坂村に往診していた肥田医師の体が爆発で吹っ飛んだ処から経験談が始まります。紅蓮の火柱を見た彼はそれから広島市内へ。そこで展開されていた景色とは……、血のニオイやヒトの焦げる匂いがするような、そんなおぞましい、リアルな原爆体験が描写されています。

原爆被害の診療に当たった肥田医師は黒焦げになった人や焼け爛れた人だけでなく、爆弾投下後に広島へ入った人でも同じような被曝症状になっていること、あるいは爆心から60kmも離れた処にいた人等まで亡くなっていくことに気づきます。

直爆を受けていないのに何故死んでいくのか? 米軍や国は残留放射線の影響はないと云っているが本当か? 肥田さんは大きな疑問に突き当たり、その理由を探り当てていくことに…。まるで推理小説のように、内部被曝の禍々しさを暴き出していく下りは一気に読ませてしまいます。

肥田医師が低線量放射線という言葉を知ったのは、スターングラスの「死にすぎた赤ん坊」という著書だったとのこと。でも、肥田医師が一生かけて追及してきた原因不明の被曝疾病「ぶらぶら病」こそ、米軍と日本国と放射線防護学関係者が隠蔽してきた残留放射線による低線量被曝そのものでした。この本にはペトカウ効果など、ここ2, 30年の被曝研究の成果なども載っており、非常に有益です。(注)

一方、鎌仲さんは湾岸戦争時に劣化ウラン弾で被曝した兵士を追っていて、イラク本土で被曝した住民がいることに気づき、それを取材していて内部被曝を研究していた肥田医師に突き当たりました。そしてこの本が出来たというわけです。

二人はヒロシマ・ナガサキ、イラク…、どれも従来の説明ではうまく解釈できない実態を、内部被曝というキーワードで読み取ろうとしています。「まだはっきりしない点があり、今後の研究に期待したい」等と抵抗する向きもあるでしょうが、人体実験の結果を待っていたら多くの人は墓場の中。危険性が指摘され、妥当な判断ができるのなら、それを採用する、つまり予防原則を発動させることが明日に繋がるのではないでしょうか。

内部被曝を基礎から勉強しようという人は是非ご一読を。お薦め。

(注)ペトカウ効果とは、「長時間低線量で被曝する方が高線量で瞬間的に被曝するよりも細胞膜を破壊する」という、偶然の実験結果から得られた学説。その話が見つかったのは1972年。その後、スリーマイルやチェルノブイリ原発事故を経て、被曝の議論も随分変化してきました。ECRRの内部被曝の線量推定にもペトカウ効果が重視されています(2010 Recommandations 9.6.2参照)。