チェルノブイリの惨事

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チェルノブイリの惨事チェルノブイリの惨事
(ルベオーク夫妻 桜井醇児訳 緑風出版 1994)

フランスの物理学者夫妻から見たチェルノブイリ原発事故の顛末。フランス人の視点からの説明が興味深い。原著は1993年出版で、ウクライナやベラルーシなどの法的避難制度が整うまでの経過を説明しています。

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フランスといえば、日本と並んで、いや日本以上に原発依存が強い国。そういう事情もあってか、フランス当局はTV局やルモンド誌を通じて、チェルノブイリ原発事故の被害をできるだけ小さく見せようと画策しました。曰く、あれはソ連の事故だ、原子炉のタイプが違う、フランスでは起こらない、とかそんな類の話です。

ソ連で事故の甚大さが報道されるようになっても、フランスでは被害を過小評価するような新聞記事が出ていたというのですから、なんとまぁですね。またルモンド誌が、異常な罹病率の増加について「放射線恐怖症」で心理的な問題だと説明する記事を載せていた、ということを聞くと、あぁ日本でも同じことが進行中だなと思わざるを得ません。現在かの地で裁判沙汰になっているフランス保健省の放射線防護中央局のペルラン氏。その御用学者ぶりはお読みになっておられる人も多いでしょうが、この本でも具体的に言及されています。

肝心のチェルノブイリ原発事故の話についても、日本では知り得ないような話題が載っています。たとえば、レガソフ氏の話は意味深長です。彼は原発事故の対応に当たった政府委員の1人で、かつ1986年ウィーン会議で事故の説明を行ったソビエト代表団の団長でした。その彼が2年後に自殺。その遺書の中で、事故直後の処置が当初伝えられていたものからほど遠いことに言及しているというのです。その中味を聞くと…、う~~ん、原発に近いプリピャチ市からの避難ってホンマだったんだろうかと疑念が出てきます。

また、ウクライナやベラルーシの避難計画が形になるまでの経緯について、かなり細かい解説を試みています。これは参考になるかもしれません。

この本の出版年は1993年。その後明らかになった甲状腺ガンの頻発などについては記載がありませんが、当初からガンの大幅増加を想定していた「読み」は、当時としてはかなり勇気のいる発言だっただろうと推察します。でも、事実は著者らの推測を証明した形になりました。また翻訳者が著者と親しい物理学者であるせいか、訳出が読みやすく用語解説が秀逸なので、チェルノブイリ原発事故と絡めて放射線防護学を勉強しようとする人にとっては貴重な本になっています。

チェルノブイリ原発事故を見直し、福島で起きている様々な出来事に活かすためにも有用です。当局の対応はどうやらチェルノブイリの時の焼き直しが多いから。というか、御用学者を率いる原子力マフィアの方が歴史に学んでいるからでしょう。そのことを日本の私たちが真摯に理解しておかないと、チェルノブイリ事故で使った大衆誘導等のマヤカシを再現させてしまいそうです。