世田谷と敦賀のあまりにも大きな違い

.opinion 3.11

後半統一地方選で2つの対照的な首長が選出されました。1つは東京都世田谷区長選。そこでは脱原発を訴えた保坂さんが初当選。もう1つは福井県敦賀市長選で、原発推進・共存を訴えた現職が当選。この落差はいったい何なんでしょうか? (第一稿)

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東京都世田谷区長選では元国会議員の保坂展人さんが見事初当選。選挙直前に社民党を離党しての立候補でしたが、福島第一原発の事故に伴う危機感の中、脱原発を明快に打ち出しての当選です。まずはおめでとうございます。石原都政のお膝元で自民党や民主党候補を破っての堂々の勝利ですから、尚更価値ありというところでしょう。期待しています。

一方、敦賀市は現職の河瀬一治さんが「過去の実績」を活かして当選しました。敦賀市は敦賀原発やもんじゅ等の原子力発電所を生活圏に有する町ですが、東電福島原発事故をふまえて原発の安全性確保をうたいつつも従来通りの原子力行政の推進を基本スタンスとしています。選挙戦を争った他の3候補も大なり小なり似たようなもので、誰も「即時停止や廃止」を求める者はいませんでした。脱原発派としては投票所には行きたくなかったのではないでしょうか。

東電福島原発で世間が騒ぐ事態になっているのに一方では脱原発首長、もう片方では推進市長が選ばれるというのは一体何故でしょう。第一に町を成り立たせている基盤の違いでしょうが、世田谷区と敦賀市をざっくり比較すると以下の通り。

世田谷と敦賀
自治体名 都世田谷区 福井県敦賀市
人口 83万人 6.8万人
65歳以上 19% 22%
面積 58km2 75km2
電気 東京電力 北陸電力
原発関連交付金 なし いろいろ有り

人口や高齢者の比率、面積は横において、注目してほしいのは敦賀市には原発関係の税金がどっさり提供されること。内訳は、電源立地等初期対策交付金、電源立地促進対策交付金、電源立地特別交付金、原子力発電施設等立地地域長期発展対策交付金、それに固定資産税というもので、長いもので10年という長期間に渡りますから、その金額たるや、知らない人にはびっくりほどの大判振る舞いです。

数字でいえば、「環境影響評価開始の翌年度から運転開始までの10年間で合計約391億円、その後運転開始の翌年度から10年間で合計約502億円。20年間では、電源立地地域対策交付金が545億円、固定資産税が348億円で、合計約893億円」にもなります(注)。敦賀市の一般会計予算が300億円程度(歳入)であることを考えると、原発そのものが巨大地域産業とでもいうべきものとなっています。いわば、地域が原発にどっぷり漬かってしまっているというわけ。

敦賀に行くとわかりますが、JRの駅はこじんまり、駅前は数十年前の面影ありといえば、何かノスタルジックですが、実質的には寂れた雰囲気と云うべき感じ。にもかかわらず、市内の中心通りは不自然に広く立派。これといって有名な産業があるわけではありませんので、自治体に流れ込んだ原発交付金によるハコモノ行政が作り出した不自然な人工的空間といえばいいのでしょうか。今回の原発事故の後、敦賀等の福井県民にTVで取材しているのを見ましたが、「原発は安全であって欲しい」とか、「原発がないと困る、生活が成り立たない」という町の声を伝えていました。う〜〜〜ん、ホンマにそれでいいんのかなぁ。

要するに敦賀市とは原発がないと成立しない町なのです。だからこそ、今回の選挙でも脱原発を打ち出す候補が皆無だったわけで、市内に住む大多数の住民にとっては、いくら危険な原発でも、それと共存していくことが町の生きる道だという悲しい現実があるのかもしれません。

でも、今回地震津波が起きたのが福島ではなく敦賀だったら、はたしてどうなっていたのか。現在もんじゅのプルトニウム再利用(MOX燃料)の燃料棒が事故で取り出し不能状態に陥っていますから、尚更恐ろしさがつのります。そんな話は知らないって? う〜〜ん、そうかもしれませんね。だって、メディアはこの事故のことをきちんと伝えていません(余談でした)。

それにしても、NHKは朝7時台のニュースで愛知補選と地方は長崎大分津の3つだけに留め、世田谷区長選を伝えませんでした。一連の原発報道でNHKも民放も大本営発表状態ですが、スポンサーべったりの民放よりもNHKの方がタチが悪いと思うのは私だけではないでしょう。

・TBSの放送はこちら <- TBSは24日の原発反対デモについて。ニコルさん名誉挽回? ・テレビ朝日はこちら

さて、世田谷と敦賀にはもう1つ大きな相違があるのですが、それはまた後日。

(注)原発絡みの巨額な地方交付金は発電コストには含まれません。というのも、電力会社ではなく国民が支払っているから。ここにも、原発の発電コストが安上がりだと説明してきた国や電力会社のウソがあります。