窃盗と窃取

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今年は秋になってトンデモない事件が表出。三菱UFJ銀行(MUFG)の貸金庫から10億円相当の金品が盗まれていたという事件です。

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晴れの日に傘を貸し出し、雨の日に取り戻すのが銀行、そんな話を聞いたことはありませんか。最近ならスルガ銀行、昔ならバブル期の銀行を思い出して下さい。銀行は決して信用してはならぬ、と日頃から云っている私でも今回の銀行貸金庫の窃盗事件には驚きました。

当の三菱UFJ銀行の報告書を読むと、事件の発覚は2024年10月31日。懲戒解雇にしたという話がマスコミに出たのは11月22日で、事件の正式な記者会見は12月16日でした。犯行場所は練馬支店などで、被害者は契約者約60名、被害総額は時価10数億円とのことです。犯人は支店の店頭業務責任者とのことですが、三菱UFJ銀行は犯人の氏名を公表せず、「窃盗犯」「窃盗者」ではなく「行為者」としていますし、「窃盗事件」ではなく「発生事案」と記載しています(窃盗事件を薄めることを狙ったのでしょうか)。

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詳しい話はネットで検索していただくとして、まず驚くのが、貸金庫は銀行側だけで開けることができるということ。契約者の鍵と銀行の鍵の両方がないと貸金庫は開かないと思っていましたが、契約者の鍵のスペアを銀行側が保管していて、そのスペアキーを使えば契約者が知らないうちに銀行員が開け閉め可能というのですからびっくり。

もう1つ根元的な疑問は、銀行は貸金庫の中身を把握しているのかどうか、という点。事件発覚後、自分の貸金庫は大丈夫かと問い合わせた顧客に「問題なし」と答えた銀行があったそうな。貸金庫の中身を知らない筈なのになぜ問題なしと言えるのか、この顧客は不審に思ったというのですが、その通り。

銀行保管のスペアキーで開けられるというのは驚き

今まで、貸金庫内の財物がなくなったという人も実際にいましたが、銀行側にホンマに入れたのかと疑われたり、警察に訴えても相手にされず、被害届を受理してもらえなかったとのこと。でも、このようなケースも本当は銀行側に盗られていたという可能性が考えられます。

今回は犯人が細かいメモをつけていたので犯行内容が分かったらしいのですが、そのメモが全部かどうかは犯人しか知りません。三菱UFJ銀行の他の支店でも似たような立場の人が似たようなことをやろうと思えばやれた筈。でも、今回の犯人の犯行を数年間も見落としていた三菱UFJ銀行が、「他の支店ではこのようなことはありません」となぜ云えるのでしょうか? 

特に、家族にさえ銀行貸金庫の存在を秘密にしているような契約者が死亡したり認知症になったりしたら、簡単に盗める筈。あるいは家族がいても、契約者が死亡した後に銀行貸金庫を開けたら予想外に中身が少ない、ということは結構あるらしい。その場合は、契約者が入れていなかったとされてきましたが、本当は銀行側の誰かが盗ったという可能性も否定できません。契約者の年齢や認知症の有無・家族構成・貸金庫の利用頻度など、銀行側がチェックするのは簡単な筈・・・と考えてしまいます。思うに、全国に多くの類似例がありそうです。

銀行の信用が覆される大事件があったのに、貸金庫の契約者は自分のは大丈夫と言い切れるのかどうか。

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ところで当の報告書で出てくる「窃取」。窃盗と何が違うのか。ネットで調べると「こっそり盗むこと」などと出てきますが、法律用語では窃盗罪の構成要件の実行行為を窃取というらしい。

でも日常会話ではまず使われない「窃取」を使って事件の印象を薄めようという意図が銀行側にはあるのではないでしょうか。新聞テレビは「窃盗」と記載せず、銀行の言い分そのままの「窃取」と表現しており、視聴者・読者に事件の重大さをはっきり伝えないことを意図しているようです。

盗みは盗み、他人のものを盗むのは窃盗です。窃盗を窃取、窃盗犯を行為者などと分かりにくく表現することで銀行側は事態の深刻さを減弱したいのでしょう。でも、マスコミも一緒になって馴染みのない「窃取」を使うことで銀行の印象操作に加担しているのだ、と私は考えます。

コンビニでMサイズのコーヒー料金でLサイズを入れたという教師をマスコミは名前や学校を調べて吊るし上げて懲戒免職に追い込みましたが、この時は「窃盗」と記載していました(被害金額は合計490円)。今回の犯人はいまだ闇の中。銀行側や被害者たちが警察に被害届を提出したかどうかも不明ですし、12月末段階で窃盗罪での逮捕も起訴もされていません。この問題を掘り下げる報道も見られず、新聞テレビは大手銀行に忖度していると云われても仕方なし。

いずれにしてもこの事件、銀行は決して信用するなというサンプルの1つになりました。おまけに大スポンサーに忖度するマスコミの本質的欠陥も相変わらずで要注意です。