ITゼネコンとスパコン

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希望を捨てる勇気―停滞と成長の経済学池田信夫さんの本を読むまでITゼネコンという呼称を知りませんでした。池田さんの造語かもしれませんが、膝叩いて納得々々。
ゼネコンといえば、鹿島や大成あるいは大林のような土建系大会社のことを指しますが、今この国を食い物にしているのはそれら土建ゼネコンではなく、むしろITゼネコン。って云えば、話がわかる人は鋭い。今回のスパコンを巡る議論の真相は何か。メディアが蓮紡さんらの仕分け作業を漫画化して報じた意図は?
(お詫び)本文中の長崎大スパコンの話に間違いがありましたので訂正しました。既にお読みになった方は再読よろしくお願いします。
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昨年、民主党の仕分け作業で文科省のスパコン予算をばっさり切ると、やれノーベル賞学者はじめ、多くの学者や科学評論家らがそのことを非難していました。曰く、日本の科学研究には不可欠だとか、将来を見据えたお金の使い方を考えてくれ等々。

そのまま聞いていたら、連紡さんらは未来や教育に疎い愚か者で、必死に抵抗する学界関係者が真面目で真摯な感じ。TVや新聞などのメディアは批判的な雰囲気で予算削減を伝えていましたし。

でも、ここには大きなマヤカシがあります。そのことを主張していた数少ない人がこの本の著者の池田さん。

理化学研究所が世界最速を狙うスパコンの予算は約1150億円(2010年分は約300億円)。ところが、現在世界一のIBMのBLUE GENE/Lの費用は総額で10分の1の100億円程度。なぜ、そんなに価格差があるんでしょうか?おまけにどんどん速いコンピュータが登場する予定とかで、くだんのスパコンが完成した時点では世界のベストテンに入るかどうかも怪しいとか。これではお金の無駄使いと云われても仕方なし。

たまたま見た某番組でも、長崎大学の研究者が組み立てた分散型コンピュータが国内最速を叩き出すことが紹介されていましたが、この費用は3800万円程度とか(注)。この若い研究者に100億円も出せば、世界に誇れるコンピュータが安価に作れるではないですか?なぜ、異様に高いお金をかけて「遅いスパコン」に投資するのでしょうか? 

池田さん曰く、「要するにこれはスパコンに名を借りた公共事業であり、世界市場で敗退したITゼネコンが税金を食い物にして生き延びるためのプロジェクト」と喝破しています。

池田さんによると、理研のプロジェクトリーダーはNECからの天下りで、元の会社に発注しているとのこと。これは利益相反で土建ゼネコンより悪質だ、というのが彼の言い分。蓮紡さんはどこまでそれを知っていたのか。問題にすべきはスパコンの価値や必要性ではなく、厳格なコスト論議だというのを知っていれば、もっと強気で押せたのかもしれませんね。(でも、ITゼネコンが民主党のスポンサーなら無理か)

細かい話は省きますが、ヒタチ、エヌイーシー、ミツビシ、トウシバ…等がコンピュータ導入とかITとかの波に乗って、企業国・自治体あるいは病院などの公共機関を食い物にしているし、過去そうしてきたのは関係者ならわかるはず。

なぜそんなことがまかり通るのか?

役所側にコンピュータ絡みの知識がないのもありますが、実は「お金をたくさん使うのが立派な仕事」であるとか、「大きな予算を動かす人が優秀」などというトンデモナイ話が公共機関側に在ること。それに、企業側の儲け話が結託してできた税金無駄使いの仕組みが問題の本質で、根本的だと私は思います(きっぱり)。昔はダムや橋などだったのが、今はコンピュータというわけでしょう。その「税金ジャブジャブの儲け話」の一端にいること知ってか知らずか、著名学者や評論家がスパコン擁護に回るのも滑稽のきわみ。益川さんもその程度だったのかと思うと残念。

池田さんの本にはスパコン話だけでなく、右肩上がりの成長を前提にした将来計画はこの国を滅茶苦茶にしていくことをいろんなデータを駆使して丹念に主張しています。お薦め。