発ガン性のおそれ  ・・・鶴岡市の場合

Water

  数日前、某雑誌編集者Kさんの紹介で山形県鶴岡市議会議員の草島進一さんから電話がありました。曰く、彼の市議会・一般質問の一部を削除しろという圧力がかかっているとか。詳しくはご本人のHPを参照していただくとして、電話での質問内容は鶴岡市の水源変更によるトリハロメタン濃度の上昇が発ガン性のおそれのある水に繋がるのかどうかということでした。

 話を整理しておきましょう。草島さんからいただいた議会答弁書によると、現在鶴岡市は地下水を水源とし、その水質は良好です。ところが将来は人口が増えるであろうという予測のもとに、近隣地域といっしょになった庄内南部広域水道計画に参画した結果(1980年に議会決定)、地下水水源からダム表流水を水源にせざるを得なくなっています。
  最近の水質分析によると、ダム水源の広域水道の水道水では総トリハロメタン値が1.28マイクログラム/リットルで、地下水水源の鶴岡市水道水の0.02〜0.15マイクログラム/リットルより1桁高くなることがわかっています。草島議員はこのデータを以て「質の落ちる、発ガンのおそれのある水」になると称したわけです。
  しかし、他の議員全員(!)はこの言い様がいたく気にいらなかったらしく、取り消せと要求のです。もともと草島議員は鶴岡の地下水によるおいしい水を守れと訴えて今年4月の選挙で新人当選したばかり、そう簡単に引き下がれない。クレームを出している他議員は「水道水に発ガン性のおそれがあるというのは市民に不安を与える」として取り消しを要求しているわけですから、真っ向から対立してしまいました。
 
 専門的な判断でいえば次の通り。地下水源を問題のダム水源に変更した場合の総トリハロメタン値が1けた上がるのは、それだけ消毒用塩素と反応する有機物質が増えているせいで、発ガンリスクは約1けた程度は跳ね上がっていると考えるべき。発ガン性の有り無しは濃度とは関係ないので、あればあるだけ危険性は増加する。しかし、ダム水源から処理した水道水の総トリハロメタン約1マイクログラム/リットルによる発ガンリスクは1生涯10万分の1の危険性の約2桁も下だから、まず気にする必要はない。前者の意味合いでは、地下水よりも汚染された水源を使うことでより発ガンのおそれが出てくるという草島議員の意見は間違いではありませんし、現実的には問題ないので不安を煽るなという他の議員たちの言い分も妥当なものだと私は考えます。つまり、どちらもそれなりに根拠ありで、簡単にシロクロがつくような問題ではありません。
 
 しかし、鶴岡市の今回の問題の本質は実はトリハロメタン問題ではない、と私は考えます。まず、水道水の安全性に対する物差しの問題。すぐに危険か安全かという二者択一を迫る人が多いのですが、実際にはそう簡単ではありません。逆にリスク評価を持ち出し、機械的な計算で安全・危険の線引きをする人もいますが、それはあまりにも行政的。水質基準というのは水道事業側が自分たちの事業に一定の作業基準を当てはめたものであり、必ずしも危険・安全の線引き基準ではありません。面倒な議論を省けば、水道水の安全性の議論とは、水源の汚染状況、処理技術のレヴェル、給配水設備の条件などをすべて総合的に勘案してはじめて可能です。単一の物質だけを取り出して有害性を論じるのは、作業上は大切ですが、それで水道水総体の安全危険を決めることは無理。今回の場合もトリハロメタン以外の有害物質についての相違はどうなのか、ダム湖の後背地の汚染状況は今後どうなるのか、ダム湖の水質推移はどうか等がもっと議論されておれば、展開は変わったのかもしれません。
 
 さらにいえば、水道の広域化に関する問題。今回の問題は、現状の地下水水源をやめて広域的水道を導入することで発生する問題のたったひとつにしか過ぎません。水道料金のアップ、一般会計からの補助金問題など鶴岡市にとっての貴重な財産である地下水を潰してしまったら金銭的にどうなるのか、将来的に大丈夫か、消費者である市民サイドにとってプラスになるのかマイナスになるのか、それは議会でもっと煮詰めるべき問題でしょう。10年以上前に決定したからといっても、既に経済状況が違います。安易に大規模事業に加担するのではなく、そんなことを考えてほしい。
 
 草島議員もその辺の事情を気づいたのでしょうか。字句云々には拘らず前向きに水源問題とその背後の料金や財政問題に取り組んでいこうとされているのは正解です。同様の問題に取り組んでいる議員は全国に何人もいます。トリハロメタンだけに拘泥せずに今後とも水道水の安全性を考え、がんばって下さい。>草島議員様