うつと腸内細菌叢

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うつな話について、その三。まず、田中圭一さんの『うつヌケ』では気温のアップダウンがメンタルな不調に関係しているのではないかという自身の読みがあり、2つ目の『食べてうつぬけ』では血糖値の変動がうつに大きな影響を与えているのだから食生活の影響を考えよ、ということでたくさんの人がうつぬけに成功していることが紹介されていました。さて、三つ目に紹介するのは腸内細菌叢の話です。

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うつも肥満も腸内細菌に訊け! (岩波科学ライブラリー)

前二回うつ関連の本を紹介した後、科学的にはどこまで研究が進んでいるんだろうかと考えていたら、念じれば通じたのか、京都丸善書店の新刊書コーナーで右の本を発見。本のめぐり逢いってありますね〜。やっぱり、ときどき本屋巡りをしなくちゃアカン、オンライン書店だけでは偏りがち、です。

小澤祥司さんの『うつも肥満も腸内細菌に訊け!』は、まさしく肥満やメンタルな不調が食生活と密接に関係していることを最近盛んな腸内細菌叢の研究を紹介しながら解説しています。

まず、叢(そう)というのは「クサムラ」のことで、腸内細菌叢(腸内フローラ)というのは腸内細菌全体の生態系という意味。本の最初の辺りで登場する、大便の重さの約半分は腸内細菌とその死骸だという指摘には少々びっくりしました(知らなかった)。

最近よく云われるようになった、腸が第二の脳(ガーション 1999)というのがあります。本書ではその辺の研究内容がセロトニンの説明を通じて展開され、とくにストレスとの関連で説明している第二章は勉強になりました。ストレスでホルモンバランスが変化し、それが血糖値のアップダウンに繋がっていると考えている者にはヒント満載といったところでしょうか。

そして肥満と腸内細菌叢についての議論もなかなか有益です。脂肪細胞からレプチンというホルモンが分泌され、視床下部を通じてインスリンの分泌に影響を与えているのがわかったのもここ20数年の話。その後、グレリン、あるいはPYY(ペプチドYY)などのホルモンが見つかり、それらが食欲にどう関係しているのかを紹介されているのは一般書では珍しい。米国ではUCSFのルスティグ教授の本などには登場しますが、日本で糖質制限を薦める医師らの本ではまだまだホルモン名程度ですから尚更。血糖値のアップダウンとの関係を含め、この辺の話は今度さらに深まっていくことでしょう。

一方でメンタルな不調についてはASD(自閉症スペクトラム障害)に関する紹介がメイン。パーキンソン病その他については近年研究が「積み上がってきている」とし、簡単な紹介のみに留まっていますし、タイトルにある「うつ」に関しての説明は一般論+わずかな話のみ。

曰く、「腸の不調が脳のセロトニンに影響を与えている可能性」、「薬剤が効かないタイプのうつ病の治療に、迷走神経刺激療法が用いられる」等が、「内臓感覚が私たちの気分や感情に影響を与えていることを示す」とのこと。でも、これだけではタイトル見て本を読もうと思った者にはちょっと肩すかしで残念。

でも、その点を除けば、この本は実に面白くて有益な情報でいっぱいです。腸内細菌叢の研究が複雑なホルモンバランスを明らかにしてくれるかもしれないことを知ったのは私には大きな収穫でした。先の本の漫画仕立てとは違い、微生物学や遺伝的知識などの基礎知識がないと読み辛いかもしれませんが、専門書ほど固くはありません。トライすれば得るもの多し。私はお薦め。