改訂版クリプト指針の問題点(1)

Water

 既に1996年10月4日に厚生省から通知されていた「水道水中のクリプトスポリジウムに関する対策の実施について」(以下クリプト指針)ですが、その改訂版が1998年6月19日づけで通知されています。「新たに得られた知見等を踏まえ」て改正を行ったとのことですが、基本方針が変更されたわけではありません。

 あのクリプト指針が決定的にダメなのは、対象が主に水道事業体に限定されていて、水道水の安全性に関る衛生機関のとるべき指針でもなければ、住民個人の健康管理への指針でもないという点です。「応急対応の実施」とか「広報」という項目がたしかにありますが、水道事業者は他の関係部局と協力してがんばってねと言っているだけで実質的な内容がありません。縦割り行政の中で、それも水道事業という狭い範囲内での指針にしか過ぎないので、事件が発生しても誰が「なま水警報」を発令するのか、関係者がいったい何をしたらよいのか、全くわかりません。その辺は今回も全く全く省みられませんでした(残念)。クリプト指針で住民の安全性を確保できると考えるのは、水道行政に100%の信頼を期待することと同義ですね。

 私の論点の是非は、水道サイドとは違う視点で眺めればすぐにわかります。たとえば、自分の地域でクリプトスポリジウム事件が起きた時、地域の保健所はどうしたらいいのでしょうか。どうやって感染の有無を確認するんでしょうか。どこに連絡したら適切な分析ができるんでしょうか。「なみ水を飲むな」という発令は誰がいつどこでどうやって検討するんでしょうか・・・全くわかりません。医者はどうやって対処したらいいんでしょうか。確定診断はどうしたらいいんでしょうか?どんな医療行為をしたらいいんでしょうか・・・これまたわかりません。
 米国で出回っているクリプトスポリジウムハンドブックは別に水道事業を対象としているわけではありません。医療機関や最も深刻な被害を受ける可能性のある人たちに対する指針も提供することによって公衆衛生の維持、向上をめざしていますが、それに比べると日本のクリプト指針は雲泥の差です。厚生省の担当者に、そのハンドブックを見たことがあるかと実物見せて問い合わせたことがあるんですが、去年9月段階では見ていないことを確認しています。(あれから1年、まだ読んでないんですか>Yさん)
 ちなみに、大被害を出したミルウォーキーでも今年のシドニーでも、水道事業体自らが進んで「なま水警報」を出したわけではありません。水道水を沸かして飲めと指導したのはどちらのケースも保健当局で、水道当局の抵抗をものともせずに住民の健康や安全を重視した結果でした*。つまり、ネコ(水道事業)に自分で鈴をつけること(水道水の危険性を警鐘すること)を期待するのは、期待する方が甘ちゃんというわけでしょうか。日本では情報非公開だから、いわずもがなですね。

*ミルウォーキーでは、水道局担当者は不作為の責任を追及されています。シドニーでも既にトップの責任問題が法廷でも争われるとの話が出ています。そのトップは次の議会選挙にも出るとかで、8月半ば・事件の渦中に早々と辞職してしまいました(更迭ではありません。職場放棄/責任放棄に近い)。