埼玉プール事故:欠陥プール
2006/08/23
女の子を命を奪った埼玉県ふじみ野市の大井プール。何度も何度もTV各局のプール映像を見ながら、なぜだろう?なぜだろう?と繰り返し考えていました。それは、あの吸水口があまりにも貧弱である点です。どうしても気になって仕方ありません。あの柵は最初からついていたのだろうか? いつ外れてもいいような、あんな構造の安全柵で、プール管理者側は本当に大丈夫だと思っていたのだろうか?、そんな疑問です。
後日、ある現場写真をみて驚きました。そこには、問題のプールに設計施工上の決定的な欠陥があることが示されていたからです。(写真は朝日新聞2006年8月1日のもの)…
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8月3日プールコンサルタントの関秀行さん(メルス技研)から、「1日の朝日の写真を見ましたか?」との電話がありました。関さんはプールの水質管理の専門家で、プール構造にも詳しく、拙著「あぶないプール」執筆の時にはいろいろとご助言下さった方です。
その問題写真は、8月1日の朝日新聞に掲載されたもの(上)。矢木隆晴さんの撮影というクレジットがついている事故現場の写真です。
関さん曰く、「吐出側には安全格子があるのに、吸水側にはないよね。これは設計か施工に大きな問題がある」とのこと。驚きました。そして先の疑問の答が少しずつ解けていくような気がしてきました。
写真をよくご覧下さい。右側手前が問題の吸水口。真ん中よりも少し左側にあるのが出水口です。出水口とは、起流ポンプで吸い込んだ水をもう一度プール側に戻すための口ですが、出水口付近を拡大したものを改めて下に示します。縦に格子が入っているのがよくわかります。
一方、吸水口はどうなっているのか。こちらも当日の朝日新聞に載ったものを示しますと以下の通り。吸い込み口には縦格子も何もありません(追記)。安全柵がはずれていれば吸い込まれてしまいます。実際、女の子が吸い込まれ命を落としました。(追記:吸水管には縦格子がない、という意味です)
なぜ危険な吸水口には安全柵がないのに(追記:吸水管端に縦格子のようなものがついていない)、出水口には縦格子があるのでしょうか?
関さんのお電話を受け取り、私にはピンと来るものがありました。問題の吸水口が、プール本体の建築工事とポンプなどの設備工事との責任分界点になっている、というもので、その推論は関さんも私も同じ。
出水口は水が出るから吸い込まれることはない、安全柵など余計だ等と考えた人はシロウトです。ポンプが止める時に吐き出し側が一瞬負圧になると吸い込まれてしまうので、安全柵はこちらにも必要なのです。事実悲しいことに、出水側でも吸い込まれて無くなった被害者はいます(1993 千葉県酒々井町営プール)。だから、問題のプールでも出水口に縦格子があるのは奇妙なことではなく、安全対策としては間違いのない対応です。
では、出水口の安全対策まで配慮するような建築業者が、なぜ吸水口は危険なままにしていたのか。出水口の格子を見る限り、建築業者が安全対策をとらなかったというのはちょっと考えにくい。とすると、吸水口の安全対策は別の業者が行ったのではないか。その別の業者とは誰か?
一般に、ポンプなどの機械電気設備工事は土木建築業者とは別の業者が行うのが公共工事の通例です。このプール工事でも吸水管設備はポンプ設置業者の担当工事になっていたのではないでしょうか。その工事の責任分界が設備業者と建築業者との間で明確でなかったため、建築工事の方はプール壁面にあった出水口の安全柵だけ施工し、設備業者は自分の担当かどうかもわからないまま、吸水口側の安全対策は取り残されてしまった。
さぁプールが完成した。あら、吸水口の柵はどうしたの? 誰かの指摘を受けたのか、あるいは工事業者自らが気づいたのか、旧大井町の工事担当者がクレームしたのか、私にはわかりません。が、慌てて安全柵の取り付け工事を誰かが行った。それが今回の吸水口の、まるで「急こしらえのとってつけたような柵」になった理由ではないか、というのが私の推論です。
柵の留め金の貧弱なことに気づいた人は多いはず。これでは柵の留め具以前に受け部分が腐蝕してダメになる可能性もありますし、大きな力を受け止めるにしてもあまりにも簡単すぎる(追記:台座部分のことです)。これでは、簡単にはずれてしまうでしょうし、はずれてしまったからこそ針金止めなどという恥ずかしい現場手当になってしまったのだと考えざるを得ません。針金止めを問題にするのであれば、安易に針金で止めることを許してしまった設計施工の問題こそ問うべきです。
私の推論は設計図書と完成図書を併せて見れば、当たっているのかどうかがすぐにわかります。
実は、私が入手した本件プールの建築図面には吸水口の位置もサイズもありませんでした。だとすると、吸水口に関する図面は設備工事側の図面にあるはずですが、現段階では私にはわかりません。
もし施工図面に吸水口の安全対策がないのなら当初から「悪魔の穴のプール」だったことになり、設計施工業者とオーナーのふじみ野市の責任はきわめて重くなります。
安全対策が施されていたのなら、それは誰の担当工事でどう施工されたのか。それは現在のものと同じなのか。途中で誰かが作り替えたのかどうか。そこまで明らかにした上でないと、プール管理の責任には至りません。だって、最初から危険なモノを日常管理で「安全な状態」に維持するのは大変ですから。
既に埼玉県警はこのことに気づいているのでしょうが、設計施工業者に事情聴取を行っているのかどうか。もしまだであれば、ここが今回のプール事故のキモであることを踏まえ、是非とも早急にプール構造の欠陥について調査を進めてほしいものだと期待しています。
ふじみ野市が始めた事故調査委員会をみていると、プール本体の問題には一切触れず、受託業者やプール管理の問題に責任を押しつけようという気配が出てきましたので、敢えて私の考え・推論をここに公開する次第です。