官邸から見た原発事故の真実

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官邸から見た原発事故の真実 これから始まる真の危機 (光文社新書)3.11の直後に内閣官房参与(3/29~9/2)になった田坂広志さんによる原発事故対応のまとめ書き。菅政権の時の「脱原発依存」のブレイン的役割を果たしたとされる田坂さん、原発容認を自認していますが、たしかな技術評価、率直で良識的な見解、そして3.11後のエネルギー政策に関する柔軟な視点は一読の価値あり。でも・・・

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中川保雄さんの二分類に従えば、田坂さんは『被曝を強制する側』であり、決して『強制される側』ではありません。御本人も本の中で、自ら元「原子力村」の住人であり、「原子力を推進してきた人間」であると吐露しています。

だいいち、反原発とか脱原発の者が事故直後に官邸に入れるわけがありません。誰が・どの組織が彼を政権のコンサルタントとして官邸に送り込んだのか? そこが一番のミソなんですが、その肝心の話は彼の本からはわからず、残念。

にもかかわらず、3.11以降の原発事故に対する彼の言い分はストレートでまっとうです。曰く、3.11直後に東電福一原子炉は最悪の事態に陥っていた、今でも危険な状況だが、それを政界財界官界は理解していない、「根拠のない楽観的空気」は「現在の最悪のリスク」等として、いろいろな項目に分けて彼の見解を説明しています。

また、長期的影響の評価については、誰かのように「一切ない」というような非常識な見解はとらず、「はっきりとはわからない」とし、「除染とは放射能がなくなることではない」と説明。3.11以来、ウソツキ・マヤカシな学者が大勢登場していることを考えると、原発推進側でそのような見解を云う人は珍しく貴重です。

ただ、これら解説はなかなかしっかりした内容ですが、所々にあれっ?と思う箇所があるのはどうしてなのか。推進側、脱原発側双方にイイ顔をしたような箇所がそれぞれ散見されるのはなぜなのか。

たとえば、「3000万人避難」の可能性があったことを素直に認めているのはいいとして、「避難の人々のパニックを考えるならば、容易に発動できない選択肢」としているのは肯けません。そういう想定をしていなかったことこそ、政府として問題にされるべきであり、起きてからパニック防止云々という言い訳で正当化するのはいったい誰のためなのか。そういう処に田坂氏の『被曝を強制する側』の論理が垣間見えてしまいます。

おまけに彼の議論はキレイ過ぎ。特定の個人や企業について、その責任を追及することなしに話を進めていく手法はソフトで読み易いのですが、誰がどうしたからどうなった、という所が見えにくい。特定の者たちに気兼ねをしているわけではないと氏は抗弁されるかもしれませんが、結果として特定の者たちにとって安心できる内容となっています。

とくに私が引っかかったのは、一番の責任者である東京電力の過失や責任について一切触れられていないこと。不思議でしたが、氏がダボス会議のメンバーで、ビジネスパートナーが藤沢久美さんという話を後で知って、なるほどなと納得。要するに、ビジネスに差し障りがあるような大スポンサーについては触れたくないということなのでしょう。・・・とここまで考えてきて、彼の話の曖昧さの理由や彼を官邸に送り込んだ原子力マフィアの正体が少し見えてきました。

内容は良識的ですが、「読み方注意」。