安い日本

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五公五民その3。給料が上がらないのは生産性が落ちたからではなく、日本が安い製品しか作らない、作れなくなったからというのが渋谷和宏さんの見解でした(前回の投稿)。そのような縮み経営の結果、デフレスパイラルで日本の物価は30年前からほとんど騰らず、いまでは韓国やタイよりも安いという有様。現在世界中から観光客が来日する大きな理由が「日本は安いから」という意味を私たちは心底理解しているのでしょうか。

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私が最初に香港へ出かけたのは1987年。当時の香港、韓国といえば買い出し旅行の観ありで、ご当地のモノは日本で同じのを買うより3割安程度。こちらロイヤル・ドルトンの食器などを買ったり、パソコンソフト(Word Perfect、Turbo C/BASIC等)を買い集めたりしました。

東南アジアだけではありません。1990年代のヨーロッパもさほど状況は変わらずで、ワインも今から考えると結構安く、星付きレストランにも行けたイイ時代でした。その後も円高気味だったので、不覚にも2015年過ぎまで外国の物価がじわじわ上がっていることに気づかなかったのはこちらの鈍感さ。それが現在どうなったか。

パリやソウル、シスコにロス・・・、ホテルやレストランの値段は日本と比べて1.5倍〜2倍以上。タイやシンガポールでもこの30年間着実に物価が上がり、30年前の2倍以上になっていることも前回紹介しました。昨今の為替を考慮すると値段は3倍!外国へ買い出しどころか、海外から日本へ買い物にやってくるという状況は30〜40年前の真逆です。

中藤玲 安いニッポン 『価格が示す停滞(日経プレミアシリーズ 453

具体的にどんなものがどれくらい安いのか。書名がそのものズバリの、中藤玲さんの『安いニッポン』(日経プレミア)から馴染みのあるモノで紹介してみると、・・・

たとえば、一皿100円の回転寿司も日本だけ。ダイソーなどの100円商品はタイでは2倍だし、マクドナルドのビッグマックでみても米国はほぼ3倍(為替換算)、ディズニーランドも2倍などなど枚挙にいとまがありません。

日本では値段を上げると売り上げが落ちて商売が成り立たないという危惧からデフレがデフレを呼び込むスパイラル状態で、給料も上げられないという悪循環に陥っています。

中藤さんの本によると、英国のタブロイド誌「デイリーメール」には(2020年)、イギリスの観光客にとって最も安い10の場所はサニービーチ(ブルガリア)、マリス(トルコ)に続いて、日本の東京となっており、ホイアン(ベトナム)やバリ(インドネシア)よりも安いらしい。いつのまにか、日本はとんでもなく安い国になってしまったのです。

昨今の外国人観光客の増加について、おもてなしの国だから世界中から観光客が訪れる等というのは正しくありません。ぶっちゃけて云えば、「日本は安い」から。その上、食べ物は美味しいし、治安も良いので云うことなし。昨今の円安も「日本の安さ」に拍車をかけているということでしょう。


さてこのデフレスパイラルから脱却できるのか。困難を承知で云えば、企業が溜め込んだお金を吐き出し、事業を活性化させ、きちんと人を雇い給料を上げるのがまず第一。税金の使い道の精査や租税見直しはもちろん必要ですが、庶民もお金を出し惜しみしない生活をしない限り、逃れることはできません。

なんやかんやで国内でお金が廻っていく仕組みが生まれてくるのかどうか。縮み経営のオワコン企業や利権確保に明け暮れる政治家、いまだにゼロ金利に近い政策しかとれない日銀やそのサポーター連中に期待をかけるのが無理だとしたら・・・、暗い未来しかありません。イヤな話だね〜。