貧乏神髄

.Books&DVD…

貧乏という言葉にはマイナスイメージがあります。
でも、著者は言い分は、生きることに効率(ケーザイ)を求めて何が生まれるのかと、問いかけてきます。言葉のイメージだけの思い込みで本書のようなものを毛嫌いしてしまうと、人生で大切な何かを得る機会を失っしまうような気がします。
私にはなかなか痛快な本でした。…

・・・・・・・・・・・・・・・・・

貧乏神髄 

川上卓也 著 WAVE出版 2002年9月27日

知り合いの誰かに勧められたり、書評を読んで関心を持ったり、あるいは本屋でふと見つけたりと、本との出会いはいろいろです。読んだ本が面白かったり、それまでに疑問だったことが氷解したり、腑にすとんと落ちるような内容であったりすると、人生で何か得をしたような気分になったりします。だから、本を読むのはやめられない。この本は、スローライフとか、シンプルライフというキーワードでインターネットを徘徊していて発見しました。

さて、貧乏という言葉には何かしら負け犬的なもの、哀れなもの、そして、どうしても抗い難い現実からの逃避とか挫折感を感じる人が多いのではないでしょうか。著者もそのことを了解の上で、「お金持ちや貧乏くさいだけの人々、つまり貧乏人以外の読者のことは全く考慮しておりません」という挑戦的な言辞でスタートします。でも、それは一種のハードルのようなもので、要するにまず、貧乏という言葉に先入観を持たない人を選別しているのかもしれません。

著者曰く、貧乏には偽物の貧乏と本物の貧乏があるとのこと。そして、その違いは、貧乏くささであるとし、決定的には、「確固たる個をもっているかどうか」の1点であると主張しています。貧乏という言葉のイメージの相違を除外すれば、これは納得できます。

まず、貧乏人は食を楽しもうといい、お米は電気炊飯器ではなく土鍋で炊いたらどうか、台所を見直そう、小麦粉や納豆の美味しい食べ方等々、万人にとって有意義な情報が掲載されています。
あれ、貧乏人の食事の話じゃなかったの?と思いつつ読み進むにつれ、著者のいう貧乏という言葉の意味がだんだん理解できるような気になっていきます。ここがこの本のミソで、著者も苦労した筋立てなのでしょう。本のタイトルだけで好き嫌いすると損をするというのは、そういう意味です。

自分をリストラしようと100円ショップの無駄を記述する箇所は、大量生産大量消費型社会への批判とも受け取れますし、ごみを出さないライフスタイルの獲得ともいえます。マルです。また、冷蔵庫を使わない生活の提案は、私自身は今のところこれを実践できませんし、する気もありませんが、その理屈はよくわかります。さらに、農を基本にすえる貧乏というイメージは、これからの社会に求められる展望の一端を明確に指し示していると考えるのは私だけではないはずです。

著者のいう貧乏とは何か。要するに、仕方なく落ち込んでいく貧乏ではなく、時間の自由、心の自由を求めて、自ら貧乏を選び取れというのです。これは達観です。
いずれ、この国は破綻して年収300万円の暮らしとなるという森永さんのシリーズ本とは、動機付けが全く違いますが、選び取るライフスタイルには共通する点があるような気もしますから不思議なものです。

シンプルな生活だけど、本物の食や味わいを求めていこうという人にお薦めします。2度3度読んでもためになること請け合いです。

Amazonではこちら  bk1ではこちら

(追記)
この本の著者はタバコをたしなむようで、その所作についても「貧乏スタイル」の喫煙を説明していますが、この部分に関しては私は賛同いたしません。たばこを吸うかどうかは個人の自由ですが、本人にとっては百害、回りにとっても迷惑千万ですから。