EU誕生の裏側

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ドル終焉 -グローバル恐慌は、ドルの最後の舞台となる!また自分の無知に愕然とするようなこと1つ。EU誕生の背後には、統一ドイツに対するヨーロッパ各国の恐怖やパニックありという話。昨年出てきた20年前の英国公文書にもそのことを窺わせる内容があるようです。そのことを教えてくれたのが浜矩子さんのこの本。知らなかったとはいえ、云われてみるとなるほどなぁ、ですね。

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なぜEUが生まれたのか。ヨーロッパ諸国が大きな経済圏を形成し米国やアジア圏に対抗するため? 私もそんな風に簡単に考えていましたが、これでは中高社会科の回答みたいなもの(苦笑)。

では順を追っていきませう。欧州の通貨統合と政治統合に向けての合意であるマーストリヒト条約ができたのが1993年。その4年前の1989年に起きたのがベルリンの壁崩壊。東西ドイツを隔てていた鉄のカーテンが開かれ、翌年90年には統一ドイツが誕生します。政治的な潮流が大きく変化させ、その後の世界を大きく動かした大事件でした。

でも、手放しで喜べなかったのがイギリスやフランスなどのヨーロッパ各国。東西ドイツの壁がなくなるのはウエルカム、でもドイツが統合して勢力を拡大するといったい何が起こるのか。質実剛健で勤勉なドイツが東欧まで巻き込んで覇権を拡げると、過去の苦い歴史を思い起こさざるを得ません。とくに、資源をめぐって国境を争ってきたフランスには尚更です。

いや、フランスだけでなく、すべての国々にとって、あのヒットラーのような時代はもうコリゴリだという気が出てきも不思議ではありません。一方、ドイツにしても、謂われなき邪推で各国との関係にヒビが入るのは困ったこと。そこで誕生したのが、新生ドイツの封じ込めとヨーロッパ全体の協調という思惑が合体した組織。これがEU(ヨーロッパユニオン)登場の理由だったというわけです。

実際のところ、2009年秋に公開されたイギリス公文書によると、1989年当時サッチャー政権が壁崩壊を脅威と受け止めていたことや、フランスのミッテラン政権も「ヒットラー政権以来の恐怖」であるとしていたことが、浜さんの本でも紹介されています。

私自身、88年にヨーロッパをうろうろしていた時には(EECとかECの話はあっても)EU統合なんて片鱗もなかったので、そんな誕生理由についてちっとも考えていませんでした。ヨーロッパの歴史を考えれば当然考えるべき話だったので迂闊といえばウカツ。

ちなみに浜さんの本はドルのクライマックスについての論考です。ドルという約束事を理解する枠組みの提供として、私にとっては斬新な切り口で、かつ納得のいくものでした。お薦め。