人生の隙間を覗く・・・

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artableb5月某日、あるアーティストがガンで亡くなりました。闘病中に描いたスケッチを見せてもらうと、デザインの横に・・・人生の隙間を覗くと云々とか、生を問い、世界を探索するような、そんな類の書き込みがたくさん。ああ、彼は哲学してはったんやなぁ、なるほどそうだったのか、どうりで、と改めて思う次第。その人とは大谷和正さん、工房「ごろろんき」のオーナーです。

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大谷さんの作品は、京都ならプチレストラン「ないとう」のイス、大津なら川中の「穏座」の入り口ドア、平安神宮前の瀟洒な雑貨屋さんのショーケース等、いろいろな場所で見ることができます。

onzadoorちなみに、拙宅のテーブルやイス数脚が大谷さん作。そのことは建築記録で何度か紹介してきました
昨年知ったところでは例の益川さんも大谷さん作のテーブルとか。実際のところ、北海道から九州まで、いやいやヨーロッパまで彼の作品のファンは多いと聞いています。享年62歳、惜しい人をなくしました。

11年前に家を建てようと設計を始めた頃、家具をどうするか考えていて、ひょんなことから、既製品ではなく創作家具というか、自由なデザインの、面白いものがあることを知りました。そういえば、京都から自宅へ向かう大原の途中に家具屋さんがあったなぁと調べてみると、けっこう有名なお店だとわかり、一度行ってみようと連れ合いが云いだしました。それまで家具といえば、北海道民芸とか松本民芸で十分、創作家具なんか高いだけだと思って敬遠していましたが、まぁ一度くらい見るのもいいだろうという軽い気持ちで出かけたところ、・・・ハマってしまいました。無垢の木材を木なりで扱う家具もさることながら、家具を作る人そのものが面白い・この人のならオッケイと思ったから。それが大谷さん。

artable9新居で使う食卓テーブルを探していると云うと、居間の広さや建付を粗方聞かれた後、作業場の倉庫に案内され、これでどうです?と埃をかぶった楢の板。樹齢は100年は超えているはず、一部に虫食いの穴があるけど、穴は欅のいいヤツで埋木するから・・・等という一応の説明。値段もずいぶん勉強して下さいました。できあがった長さ2mのテーブルはわが家の居間にドテンとありますが、妙にしっくり馴染んでいます。これが、わが宝物の1つを手に入れた経緯です。

chair9その1年半後、大谷さんご一家とそのテーブルで美食歓談した時のこと。大谷さん曰く、「作品は100%作り込まない」、「7、8割でとめるのが難しい」とのこと。じゃ残りは?と問うと、「残りはユーザーが作るもの。それで作品が完成する」との説明。わかるような・わからないような、でも何か大切なことを教えてもらったような気分になったのを、その時のお顔とともに思い出します。

まだまだ面白い作品を見せて欲しかった、貴重な話も聞きたかった、そんな思いがします。ご冥福を願って、しばし、さようなら。