フランソア

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フランソアというのはフランス語圏の男性名。女性ならフランソワーズ。フランソワーズといえば、フランソワーズ・アルディを思い出すのは齢60以上でしょうか。
・・・等というヨタ話は横に置き、ここで取り上げるのは京都四条にある喫茶店のフランソア。森まゆみさんの本を読むまで、この店が戦前の反ファシズムの拠点だったとは全く知りませんでした。

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京都四条河原町から少し東側、マルイ百貨店(昔は阪急百貨店)の東側を南に見ると正面が千枚漬けで有名な村上重。その途中西側にあるのが喫茶店のフランソア。

私にとってはよく歩く処。既にこの世にはいない父母が村上重の千枚漬けが好みだったので、何度も買い出しに出かけましたし、つい昨年末も行ったところ。この辺の景色は私が京都へやってきた40年前くらいから全く変わりません。

その下りの途中にあるのが喫茶店のフランソア。明治大正時代のハイカラな面影を残す素敵なお店です。私の記憶ではニ度か三度お邪魔したことがありますが、この店の名前の由来や昔の話については全く知りませんでした。

昨年末読んだ森さんの『暗い時代の人々』によると、このお店の創業者である立野正一さんは、あの『貧乏物語』の河上肇氏の書生で、開いたのがフランソア喫茶室。反ファシズム戦線の活動を支えたり、実際に会合場所として機能していたらしい。

暗い時代の人々

名前が当時の敵性言語のカタカナ名で反ファシズムを標榜するお店ですから、当然ながら当局からの圧力を受け、立野さん自身治安維持法違反で何度も検挙されていますが、戦後しばらくして復活し、今に至っています。

それにしても、ここが反ファシムズの拠点だったとは森さんの本を読むまで知りませんでした。ちなみに、名前のフランソアはフランスの画家ミレーの名前、「フランソワ・ミレー」から採ったとか。

この喫茶店の客には藤田嗣治さんや宇野重吉さんをはじめ著名人が多く、昔そこに誰かが座ったかもしれないことを考えながら座席に座るのも一興。でも、ここが反ファシズム文化人の寄り添う場所だったことを忘れないでおきましょう。

京都の喫茶店も様変わり。四条通り北側にあったミューズはなくなったし、今出川のほんやら洞も火災の後廃業。個人的に思い出のある紅茶専門のエリーゼも消えてしまいましたし、高野悦子さんの『二十歳の原点』で有名になった荒神口のシャンクレールも先日通りかかったら建物がすっかり解体されて更地になっていました。

一方でイノダや六曜社ほか昔から続いているお店もまだあり、大手チェーン店だけではないのがまだ救い。また自家焙煎の小さなお店がポツポツ登場してきたので京都の喫茶店は新陳代謝中なのかもしれません。

また時代が暗く怪しくなってきた今、フランソアの歴史は私たちに大切なことを伝えています。紹介して下さった森さんに感謝。この本、お薦め。