タンバール 或いは 花影

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LEICAがタンバールを復刻発売する、そんなニュースが1ヶ月前に流れました。タンバールというのは1935年に登場した類稀な描写のレンズで、製造本数が僅か2984コだったこともあり、中古市場で50、60万円以上。そんなレンズが新品で登場するという話に心が激しく動き、危うくポチリそうになりました。
でも、ホンマに使える代物なのかと逡巡しているとタンバールをオマージュした花影というレンズを思い出し、なんとか踏み止まりました(苦笑)。その花影が17日届いたのでテストを兼ねて紅葉の京都へ。実に面白い良いレンズに感激です。

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LEICAのレンズには超絶性能や特殊性能を誇るものがいろいろあります。その中でも一番の変わり種はタンバール。球面収差をわざとつけてソフトな感じを醸し出します。ほとんどの人にはクッキリ写るのが好まれるのに何故ソフトレンズなのかといえば、このレンズを使うと人物像などが柔らかく写るかららしい。

木村伊兵衛「那覇の芸者」(1935) 出典は無一居さんのサイト

そんなタンバールを好んで使ったのが木村伊兵衛さん。木村さんの「那覇の芸者」という写真を最初に観た時、いったいこんな写真、どうやったら撮せるのかと驚いたのを今でもよく覚えています。それが私にとってタンバールというレンズを知った最初でした。

一度使ってみたいなぁ、と思っても中古市場での値段は50万円を下らず、状態の良いものなら100万円を超えるので気易く手が出ません。おまけに噂では使い回しが難しいらしい。LEICAでさえもレンズが売れずに生産中止したという曰く因縁もある位。

でも、タンバールのような描写ができるレンズは他にありません。デジタル写真なら後で編集ソフトを使えばいいと思っても、光の乱反射的な曖昧さをボケもいっしょにコントロールすることはきわめて難しい。

そんな中、3年前にこのレンズを再設計して復活させた日本人がいました。無一居さんの「花影」がそのレンズです。製作話を聞いて欲しくなったのですが、その後MMやQを手に入れて遊んでいたのですっかり忘れていました。今回のタンバール登場で危うくポチりそうになった時、その存在を思い出した次第。ちなみに花影の値段はタンバールの9分の1です(苦笑)。


無一居さんの説明によると、花影はタンバールの設計に似せて作っているため、出てくる画は似たようなもの、つまり前ボケでソフトなイメージを出してくるわけですが、オリジナルのタンバールとはピッタシ同じものではないとのこと。

私にとっては子細な違いはどうでもいい。問題はこちらの印象を写真のカタチで出せるのかどうか、そこが問題です。ということで、早速タンバールの替わりに手に入れて昨日は京都へ。ちょうど紅葉が見頃なので南禅寺、永観堂、真如堂に出かけました。永観堂を除き、残りの2つは20年前くらいまではよく出かけた場所ですが、今年の紅葉は綺麗でしたね~。

今回は紅葉の赤を撮りたかったので、持ち出したのはRICOHのGXR(LEICAのMマウント仕様)に花影をつけたものと、比較用にLEICA Q(28mm ズミルックス)を用意しました。結果を云えば、これゾ待ってましたというくらい大満足。だって、今まで撮りたくても撮れなかった画をいとも簡単に写し出してくるんだもんね。

最近のカメラはLEICAに限らずNIKONでもどこでもコントラスト強め・ピントくっきりなのばかり。それはそれでイイんですが、観た時の印象ははたしてそうだったのでしょうか。一方、花影が出してくる画はソフトさが印象というか、ぶっちゃけ心象風景に近い。こういった写真が大好きな人がいるからこそ、LEICAもタンバールの復刻に踏み切ったのではないでしょうか。

使い始めて間もないのでアカンタレな写真ですが、そこはご勘弁してもらうとして、花影は絞り値が小さい(開放に近い)ほど光が溢れ、柔らかさが増します。でも絞ればくっきり。

難点といえば、いくらピントを合わせてもまるでボケ写真のように見えてくることもあるので困りもの。そこらのさじ加減が花影やタンバールのコツみたい。要するに柔らかい雰囲気をどこまで残すか。こればっかりは場数を積んで勉強しないといけません。精進します。

続いてスライド形式でズミルックス(Q)のと比べてみますので乞うご期待。