秋は松茸

一泉庵

 秋になるといつも、松茸の土瓶蒸しが食べたい食べたいと連れ合いが言うのです。 でも、いつも話だけでオシマイ。国産のものは値が張るのでちょっと手が出ないから です。でも、今年はちょっと話が違いました。

 折しも佐近から送られてきた「秋のおすすめ料理」というカラー印刷された葉書に 美味しそうなハモ&松茸が載っていて、値段も手頃。聞くと、今年は「海の向こうの モノ」を使ってお値段を安くしたとのことで母を誘って3人でいそいそと食べに行きま した。佐近は京都の仁和寺山門前にあるレストラン。「味と粋」をお店のモットーに 掲げる通り、確かな素材にしっかりした仕事、気配りの行き届いたサービス、そして 落ち着いた店構えです。いつ行っても満足感が味わえる、私にとっては貴重なお店 のひとつです。

注文は、おまかせの「衣笠」コースに松茸の土瓶蒸し等を組み込んでもらいました。 いったい何が出てくるのか、今日の素材はどんなものか、ホンマに美味しいのか 等々、少し気になる一時です。
最初は自家製の梅酒と胡麻豆腐・生湯葉添えが登場(上左側)。生湯葉で覆われ た胡麻豆腐の味もさることながら、その見栄えに少し驚きますが、それがまた味に 彩りを与え、今日出てくるお料理のデキを暗示させるかのようでマル。既に梅酒は 呑んでしまっており、佐近の名を冠した辛口吟醸酒を注文(作り手は京都堀川の安 田酒造)。
三寸がわりに出てきたのも素敵。写真が小さくて見えにくいけど、真ん中の枝のよ うなものは花稲穂、米の部分をコメ菓子のようにしてます。その下は鴨のパテ、左は カマスの献珍焼き。奥はマグロの味噌松風、小さな陶器に入っているのは舞茸と水 菜菊花の和え物といった具合で、どれも美味しい。

お造りはアコウ鯛、ヨコワ、そして貝柱。
お造りの美味 さって素材の良さだけでなく包丁さばきにも関係する んですが、佐近のはいつもマル。今日もお酒が進みま す。

さぁ、第一目的の松茸土瓶蒸し!フタを開けると香り が立ち上ります。「海の向こうのもの」でイケルものを 見つけてくるのは容易いことではないはずですが、さ すが。併せのハモに旨味が染み込み、御出汁を呑む と口の中に満足感が広がります。しかし、土瓶蒸しと はなかなか風流な食べ方だと思います。

土瓶蒸しに満足していたら、次に出てきたハモの南京饅頭にびっくり(上左)。南京 カボチャを裏漉しした餡の上にハモを被せて饅頭状態にして葛アンダシをかけたも の。ハモの活きがよくて身がプリプリしている白いフードの下に甘い南京の橙色があ るというのも品のある色バランスでした。味は文句なし。
右上は秋鮭のポピエット・シャンパンソース。ポピエットっていったい何だか、一度聞いたぐらいでは記憶できませんでした(哀)。カリカリに揚げたサーモンの皮の食感と 微妙な味わいが印象的。

左は追加で頼んだグジと松茸の天ぷら。
味は言うこと なし、グジのあま味と松茸スライスの食感が結構楽し い逸品。見えにくいけど、左手前にあるのはグジ皮を 揚げて鱗がピンピンになったもの、正面手前は栗の揚 げ物です。


上左は口直しがわりのナマス、素材はマナガツオ。菊があしらってあり、南蛮漬け にしたマナガツオを鮮やかに演出しています。口直しはフランス料理にもあり、あち らはシャーベットみたいなものが多く、日本料理では酢のモノが多いのは食材の脂 分の違いからくるのか、それとも文化の違いなのか、私はいつも考え込んでしまいま す(正解知っている人、教えて下さい)。
写真にはないけど、松茸の丹波蒸しなるものも注文。丹波といえば栗、つまり栗を いっしょに蒸したもので、いっしょにグジ?も入れてあって、土瓶蒸しよりも濃厚な感 じで深みのある味わい。これも美味しかった。
焼き物は、カマスと松茸の杉板焼き。幽庵漬けのカマスに松茸スライスを杉板で 包んで香りを閉じ込めたもの。思いのほか杉板の香りと松茸の香りがうまくバランス しているのがヒット。この後、しめじご飯・香の物と赤だしでおしまい。

デザートは自家製の幸水梨 のシャーベット、柿のムー ス、ピスタチオのムースの盛 り合わせ。アップルティーと いっしょにいただきました。 お腹いっぱいだったのに、デ ザートは別腹とはよく言った もの。約2時間の食事の最 後の最後まで堪能。御馳走 様でした。

佐近の松茸料理、もうしばらく注文できるそうです(電話075- 463-5582)。
私たちは晩のおまかせコースに土瓶蒸し等を追加して注文しましたが、松茸ハモしゃぶコース (お昼は6500円、夜は11000円)は前日までには予約が必要です。美味しいものを食べたい方は 是非どうぞ。お薦めです。