アナタはなぜチェックリストを使わないのか?

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アナタはなぜチェックリストを使わないのか?【ミスを最大限に減らしベストの決断力を持つ!】2009年1月14日、機体トラブルでNYハドソン川に大型旅客機が緊急着水。でも、乗客乗務員誰一人として死者が出ませんでした。その事故後、機長を奇跡のヒーローに仕立て上げたいメディアとは裏腹に、サレンバーガー機長は淡々と「皆でやるべきことをやった」と述べるのみ。その面持ちに謙虚な人だなぁと感心する一方で、なぜそこまで冷静沈着でいられたのか、何か特別な能力を持つ人物なのか、そこんとこが一番知りたいところだなぁと思っていました。その答を解いてくれたのが、アトゥール・ガワンデさんの「アナタはなぜチェックリストを使わないのか?」(晋遊舎 2011)。

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数ヶ月前馴染みのお寿司屋で某航空の現役パイロット氏と隣り合わせになりました。気さくな方だったので旨いものの話からどんどん発展していき、サレンバーガー機長のことが話題になりました。すると、彼は「(あの緊急着水は)パイロットなら誰でもできるんです」ときっぱり。えらく自信たっぷり。それを聞いた時、サレンバーガー機長がなぜ淡泊だったのかという別の面を見たような気がしたのです。

先の疑問とこの自信の2つを繋ぐキーは何なのか。それがチェックリスト。みなさんもよく知っている、準備や備忘のために用意する、あのチェックリストのことです。

チェックリスト? そんな簡単なもので奇跡を起こせるのかと訝しがるのも無理はありません。でも、単なるリストだと侮ってはいけません。かくいう私も侮っていたので大きなことは云えませんが、先の本でその威力を学び、そして最後のところで登場するサレンバーガーさんの話に先の疑問が氷解しました。

要するに、非常時であってもやるべきことは明確。乗務員全員で事前に準備していた手続きをチェックリストに則り淡々とこなすのみだった。事故後のサレンバーガー機長のコメントはそういう意味だったようです(注記)。詳しくは本を読んでみて下さい。

yamab1407著者のガワンデさんは外科医です。手術の失敗やトラブルを減らすためにチェックリストの活用を考案した人で、その発端や経緯、そして実現について詳しく述べられています。

その際、チェックリストを既に活用している業界があることに気づき、そこから多くを学んでいくことになります。それが航空業界。正確にはB17の失敗から始まる航空機の安全な操縦管理でした。複雑化する操縦をいかにしてこなしていくのか、そこにチェックリストの意義と効果が明確に現れているというわけ。私がお寿司屋さんで聞いた自信たっぷりの某機長コメントもそういう背景に裏打ちされていたのでしょう、きっと。

この本を読むまで私はチェックリストについて軽視していました。実は私、普通の人に比べるとチェックリストをよく使うタイプです。作業については準備段階から完成まで時系列に並べ、それぞれの段階で必要になる作業などをリストアップし、進捗状況を確認しながら進めるというのは学生時代からの習慣でした。
でも、チェクリストの意味や効果効用についてはさほど深く考えることもなく、たた単に便利だから楽だからという程度。でも、この本は目からウロコ。おまけに他者との共同作業やコミュニケーションにまで発展できるとは考えもしませんでした。今後はもっと積極的に活用することにしようと思った次第。

タイトルがあまりにシンプルなので、この本の価値は外見では全くわからないかもしれません。あなたが飛行機の機長や外科医にならないにしても、何か作業をする時に有益になる大事なことをこの本で学べるでしょう。ちょ〜お薦め。

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(注記)チェックリストがあれば非常時に対処できるというわけではありません。チェックリストの有効性を確実にするには非常時にも動じないメンタルな能力が前提でしょう。そのメンタルとチェックリストは両輪のような関係だと私は考えます。